世界初の偉業。ナウマン象の全身骨格化石が発見された幕別町忠類

北海道で初めてナウマン象の化石が発見されたのは、1969年のことでした。当時、日本国内におけるナウマン象の骨格化石は1966年に発見されたもののみで、それに次いで国内2例目となりました。しかも、世界初の発掘作業でもありました。

ナウマン象とは

そもそもナウマン象とは、約65万年前から数万年前まで主にアジア東部に生息していたとされる象。日本も生息域で、北海道には12万年前には本州から渡ってきていたとされています。高さ2.5m~3mでした。名前の由来は、お雇い外国人のナウマン氏にちなんでいます。マンモス象の親類です。

世紀の大発見

十勝管内幕別町忠類(旧・忠類村)はナウマン象の発見・発掘の地として知られています。

忠類村晩成の「ナウマン象発掘跡地」

それは偶然の発見でした。1969年(昭和44年)7月26日、忠類村晩成において、帯広の土木会社が請け負った農道工事作業中に、ツルハシがなにか硬いものに当たる音がしたのです。

この農道は、忠類元忠晩成線で、発見地は幕別町忠類忠類中当360-1。この最初に発見された化石は、後にナウマン象の臼歯であることが確認されました。

これを受けて十勝団体研究会は、北海道の依頼で8月13~17日にかけて緊急発掘調査を行いました。牙2本、上腕骨、大腿骨などが発掘されていくにつれ、全身骨格の化石ではないかという期待が膨らみました。

ちょうどそのころ、北海道開拓記念館を札幌市厚別区に建設予定でした(1971年開館、現・北海道博物館)。それに関連するプロジェクトとして化石すべてを発掘させようと、同年10月、発掘に備えた調査が行われました。

ナウマン象の全身骨格化石を発掘

翌1970年(昭和45年)6月27日~7月3日の10日間にかけて、集中的に発掘が行われました。発掘作業には、研究者とボランティアがあたりました。その中には、道内外の大学生ら約100人、古生物学者ら約60人が含まれていました。

その結果、ほぼ一頭分の全身骨格化石が発掘されました。発掘されたナウマン象は全体の約80%、47個の化石です。全長4.3メートルの、老齢の雄のナウマン象であったと考えられています。

一頭ほぼまるまる発掘に成功したのは、当時では世界で初めての偉業でした。つまり、それ以前に世界のどこにも、ナウマン象の全身骨格標本がなかったのです。

なお、この発掘では人工の礫器とみられる礫2点が出土しており、ナウマン象を追ってきた人類がいたと考えられました。

その後、一時的に復元作業のために京都大学へ移送され、北海道開拓記念館(現・北海道博物館)に収蔵されました。その後、複製標本として世界へ広まりました。

ナウマン象とマンモス象が両方発見された数少ない地

北海道博物館に展示されている、忠類村のナウマン象(左)とマンモス象(右)

2008年には、発見されたナウマン象の年齢が50歳くらいであることが判明しました。発見当時は若い象であると考えられていましたが、化石の軟骨部分が硬くなり骨に変化していることがわかったためです。

また、2008年8月9日に試掘された結果によると、発掘地の東側の再調査で、ナウマン象の足跡の化石と思われる痕跡が6つ発見されています。

さらに、土捨て場から紛れ込んだとされるマンモス象の臼歯が含まれていたとの研究結果が出されました。ナウマン象とマンモス象の両方の化石が発掘されたのは、日本国内ではなんとここ幕別町忠類村と北広島市のみ(いずれも後に判明)。このことから、北海道においてマンモス象とナウマン象が共存していたことがわかっています。

ちなみに、幕別町忠類村のほか、北広島市、空知管内雨竜町、栗山町、 オホーツク管内湧別町でも、ナウマン象の一部が発掘されています。

幕別町忠類村ナウマン象関係地図

ナウマン象の村として観光振興

ナウマン象一頭分の全身骨格化石が発掘されたことは、全国的にニュースで報じられました。人口約3,000人だった村の名前は一躍有名になり、全国から1万人以上の関係者や見学者が押し寄せました。こうしたことは、村に活気を与え、ナウマンの村としてイメージアップを図ることにつながりました。

現在も名称に「ナウマン」を使ったものが多く、冬季イベント「忠類ナウマン全道そり大会」、1994年(平成6年)に開業した「ナウマン温泉アルコ236」、名物「ナウマン饅頭」まであります。

忠類ナウマン全道そり大会
忠類ナウマン全道そり大会

2006年に幕別町と合併するまでは、忠類村のカントリーサインにもナウマン象のキャラクターが描かれていました。

幕別町と合併するまで掲示されていた忠類村のカントリーサイン
道の駅があるナウマン公園にはナウマン象の親子「ナウマン象の像」

また1988年(昭和63年)、現在の「道の駅忠類」(1993年登録)がある「ナウマン公園」に、ナウマンゾウ発見を記念する博物館「忠類ナウマン象記念館」 が建設されました。館内にはナウマン象の復元模型が展示されています。

忠類ナウマン象記念館
忠類ナウマン象記念館に展示されるナウマン象の復元模型

また、2002年(平成14年)には、忠類村南東部の発掘跡地に「ナウマン象発掘産状模型」が展示されました。

幕別町忠類村南東部にあるナウマン象発掘の地
発掘跡地に展示されている産状模型

十勝南部を訪ねる機会があれば、忠類村のナウマンゾウ発掘の地、忠類ナウマン象記念館で、古代ロマンに思いをはせてみてください。

北海道博物館でも復元を見学可能

忠類村で発掘されたナウマン象の全身骨格化石をもとに作られた復元は、北海道博物館(札幌市厚別区)の有料展示スペース「プロローグ」でも見ることができます。

北海道博物館に展示されている、忠類村のナウマン象全身骨格復元
北海道博物館のナウマン象発掘に関する資料展示

また、本物の化石も展示されています。展示されている左肩甲骨からは、軟骨が硬い骨になっているのを確認できます。ナウマン象の本物の化石を観たい方は、ぜひ訪ねてみてください。

北海道博物館には、忠類村ナウマン象の左肩甲骨の化石が展示されている

(参考文献:忠類村『ナウマン象化石発掘調査報告書』『北海道の地名』)

(※本稿は2009年5月6日に掲載した記事を再編集したものです)