普通の冬キャベツと何が違う?和寒町「越冬キャベツ」が特別なわけ。

道北、上川地方に細長く伸びる名寄盆地の、南端に位置する和寒町。この地域の冬は厳しく、作物には冷害の心配がつきまといます。そんな和寒町の冬を乗り越え食卓に届けられる「越冬キャベツ」と言えば、道民にとってはすでにお馴染みの季節の食材です。

しかし、そもそも「越冬キャベツ」とは何なのか、どのように作られているのか、他のキャベツとどう違うのか、皆さんはご存じでしょうか。今回は和寒町の佐藤ファームさんに「越冬キャベツ」生誕の物語、収穫の苦労からおススメの調理法まで、余すところなく教えていただきました。

「越冬キャベツ」とは? 冬キャベツとは違うの?

「越冬キャベツ」は和寒町のキャベツ部会が10年ほどの歳月を費やし商標登録をした名称です。つまり、「越冬キャベツ」を扱えるのは現在、和寒町だけ。和寒町が越冬キャベツの元祖と呼ばれる所以でもあります。

同じように冬に旬のものとして出荷されるキャベツでも、例えば地域により「雪の下キャベツ」と呼んでいたり、家庭では単に「冬キャベツ」と呼ばれたりします。

佐藤ファームさんの今シーズン(2017~18年)の状況では、「湖月」という品種から出荷がはじまり、1月中旬以降は「冬駒」という品種を扱っています。

「越冬キャベツ」を安定供給するに耐える商品とするためキャベツ部会により選定された品種なので、農家さんによって大きな違いはないようです。

▼出荷前のキャベツ

▼梱包作業の様子

 越冬キャベツの品種「湖月」と「冬駒」の違い

品種が違うとどのような違いがあるのかをお聞きしました。

 「湖月」は玉が大きく、柔らかく、どちらかというと色白。一方「冬駒」は胡月に比べると玉は小さめで葉もかため、色は鮮やかで青々しているという特徴があります。葉が固い分、出荷する上で持ちが良いという事情もあるそうです。

食べ比べてみると、やはり柔らかいのは「湖月」。味の好みには個人差があるのであくまで一例ですが、刻んで食べるとふわふわとしていて、口の中に甘みが広がり、生の方が美味しさが分かる気がします。漬物にしても美味しい。

一方「冬駒」は火を通すとさらに鮮やかに色づき、形も崩れにくいので鍋やスープの具材として優秀です。天ぷらにしても美味。

いずれもどんな調理にも使えますが、それぞれの特徴を知っておくと、よりキャベツのうまみを活かせるかもしれません。

和寒の「越冬キャベツ」はどうして主要産業に?

様々なお料理に使えて、主役から脇役までこなし、冬にたくさん食べられる野菜として冬キャベツは大変ありがたい食材です。特に和寒町の「越冬キャベツ」はブランドとして有名ですが、この地域の冬キャベツはそんなに特別なものなのでしょうか?

そもそも、野菜を雪の下や土の下に埋めて保存する方法は、古くから家庭レベルで行われてきた生活の知恵のひとつです。凍(しば)れてしまえば作物はダメになるけれど、ギリギリ凍れない状態を維持すれば、野菜は瑞々しく保存できる。雪の下から掘り出した作物は、自らを寒さから守るために作り出すアミノ酸のおかげで糖度が増す上、よく冷えていてシャキシャキとした食感も楽しめるのです。

▼雪の下に埋まっているキャベツ

ただし、葉物野菜は根菜に比べると凍れやすいため、普通は藁などで包んで保存します。そのため、1968年(昭和43年)、秋キャベツの暴落を受けて収穫・出荷を諦めたキャベツ農家がキャベツを放置したところ、春になってまだイキイキとしていたのは少々意外なことでした。この偶然の発見が、和寒町の「越冬キャベツ」誕生ストーリーとして知られています。

「越冬キャベツ」を商品にするための課題

キャベツは越冬できるとは言っても、安定供給が可能な「商品」とするためには、そして「越冬キャベツ」が商標として認められるまでには、乗り越えるべき課題がいくつもあったようです。市場に売り出し、お馴染みの食材とするためには、収穫量、収穫法、貯蔵法などさまざまな条件が高レベルで整わなければなりません。

このブランド確立までの道のりはキャベツ部会総員の努力ですが、町をあげて良いものを作り、ブランドを盛り立てるためには、当然、農家さんそれぞれの努力が必要です。

▼ユンボで慎重に雪をはがしながら、雪中のキャベツを探す

佐藤ファームさんでは、はじめクレーンのあるユンボではなく除雪車を利用して収穫をしていたので、非常に大変だったと言います。作業に適した機材でなければ、収穫の手間はけた違い。

雪中からキャベツを掘り出すと、一つひとつ拾い上げ、外側の不要な葉(おにっ葉)を剥いてから鉄製のコンテナへ。重ければひとつ3㎏ほどになるキャベツを積んでいく作業は、楽ではありません。

▼傷つけないよう、一つひとつ手作業

冬の収穫作業は過酷ですが、和寒町の地の利が上手に働いていることは間違いないようです。

和寒町では上質なパウダースノーが降り積もるという点も「越冬キャベツ」には重要なポイント。雪は軽く、通気性もほど良く、確実に深く積もる。雪が足りなければもちろん「越冬キャベツ」はできませんし、雪が重ければキャベツに負担がかかり、腐れが出る可能性も高く、収穫も大変です。

カボチャの倉庫も役に立った

和寒のカボチャの生産地としての面も「越冬キャベツ」を生み出すには重要でした。もともとカボチャの作付け面積が一位の和寒町では、「越冬キャベツ」を適切に保存、出荷するにあたって必要な倉庫がはじめから整っていた農家さんが多かったという背景があります。

せっかく収穫したキャベツが室内で凍ってしまっては仕方ありません。冬場は0度以下が当たり前の北海道では、雪中よりもむしろ室内の保温能力に気を使わなければならないのです。

「それでも、少し倉庫の吹き付けを厚くする必要はあった」「一からキャベツのために倉庫を拵えるのはけっこう大変なんじゃないかな」と佐藤さんは言います。「冬キャベツは雪に埋めればできるけど、誰でもすぐにできるものじゃないよね」。

▼倉庫の様子。ピーク時は、ここにコンテナ一杯のキャベツが15基近く並ぶ

特別じゃないけど特別な越冬キャベツ

冬キャベツは決して特別なものではありません。工夫次第では、ご家庭でも雪の下に一定期間保管し、甘みが増す美味しい冬キャベツを作ることが可能でしょう。しかし、和寒町の「越冬キャベツ」を作るには、様々な条件が揃っている必要がありました。

お馴染みの冬の味覚として、「越冬キャベツ」が私たちの食卓にあがるまでには、数々の偶然と各農家さんの工夫がありました。

冬キャベツはどれも一緒と思うかもしれません。しかし、もし試したことがないのであれば、時間をかけて実を結んだ和寒町の安心ブランドにして元祖の風格を保ち続ける「越冬キャベツ」を召しあがってみてはいかがでしょうか。

取材協力
佐藤ファーム
所在地:北海道上川郡和寒町大成20
電話・FAX:0165-32-3628
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