利尻島限定飲料「ミルピス」って何? 半世紀続く謎の飲み物に迫る


【利尻町】 利尻島には利尻島でしか飲むことができない「ミルピス」という飲み物があるのをご存じだろうか。知る人ぞ知る飲み物で、利尻島民ならほとんどが知っているが、フェリー航路の出発点である稚内市になると知らない人も多い。道民であっても知らない人が大多数なのだ。漫画「動物のお医者さん」を読んだことがある人なら、作中に登場したので知っている人がいるかもしれない。

海で隔絶された利尻島で広まった謎の飲み物「ミルピス」。いったいどんな飲み物なの? どんな歴史があるの? どうすれば飲めるの? 今回その謎を調査すべく、ミルピスを製造販売する利尻町の「ミルピス商店」を訪ねた。

ひっそりと営業する「ミルピス商店」


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利尻島西部を占める利尻町。沓形港の北に位置する新湊地区の道道沿いにそのお店「ミルピス商店」はある。「ミルピス」と書かれた小さな看板と赤いノボリを目印に曲がると、普通の個人宅であるが、その奥に「ミルピス」と記された青いシャッターと、店舗らしき入口がある。






早速店内に入ると出迎えてくれたのは、ミルピス商店の森原八千代さん。70代の元気なおばあちゃんで、現在一人でミルピスの製造販売を行う。こじんまりとした店内には三つのテーブル席を配置し、壁には昔の写真や有名人のサインをびっしりと貼る。




ミルピスとは「乳酸飲料」で、原液から手作りで作っている

早速「ミルピス」を出していただく。お値段は一本350円(記念での瓶の持ち帰りはプラス50円で400円)。透明の180ml瓶には利尻山の図柄とともに「最果て自家製・利尻手作り乳酸飲料・ミルピス」と赤字で書かれている。乳酸菌飲料ではなく「乳酸飲料」というのがポイントだ。


飲んでみると、のどごしさわやかでさっぱりしており、すっと入ってくる感じ。その飲みやすさから「中には、一回に5本飲んでいった女性もいたよ」と森原さんは言う。身体に良いことから、「病院の先生も頻繁に買いに来る」とも話す。


製造方法は家族以外には秘密だが、牛乳・砂糖・乳酸・クエン酸・香料が入っており、蓋には「無脂乳固形分20.2%・乳脂肪分0.9%」と表記されている。2013年3月には周辺地域の水道のくみ上げを行う利尻山の地下水が変わったことから、味がよりまろやかになったという。



ミルピスは原液作りから始まる。ホテルの需要が多い夏季は10日に一度ほどの頻度で原液を手作りし、1.5リットルのペットボトルに入れて冷凍保存する。カルピスは冷凍できないが、ミルピスは冷凍保存できるのがメリットだ。これを解凍し、原液1に対して水3の割合(3:1)で割って瓶詰めし提供している。ミルピス原液からは約33本分のミルピスを作ることができるそうだ。繰り返すが、工場を持たないので、これらすべての作業を手作りで行う。

果実ジュースも製造販売!かつては定食も提供していた


ミルピス商店で製造しているのは乳酸飲料ミルピスだけではない。なんと果実ジュースも製造しているのだ。壁に掲示されているメニューによれば「野グミ」「コクワ」「グスベリ」「ギョウジャニンニク」「利尻昆布」「ハマナス」「山ブドウ」「アロエ」「シソ」「柿酢」「イチゴ」と並ぶ。珍しいものも多くどれも気になってしまう。


▼こくわ・利尻昆布・野グミを飲ませていただいた


原料となる果実は、利尻島内でご主人が採取してくるものを使っているといい、どれもこだわりを持って美味しく仕上げている。乳酸飲料とは異なり、原液1に対して水4の割合(4:1)で割って提供する。これら果実ジュースのリピーターも多く、例えばギョウジャニンニクジュースは疲れが取れるという生の声も寄せられている。

そのほか、ゆでたまごやおにぎりも販売する。10年前まではホッケ定食をはじめとする料理も提供しており、小樽と利尻を結ぶ小樽利礼航路(1993年12月に廃止)があったころは、早朝から食事を食べられるのはミルピス商店だけだったという。島のユースホステルへ宿泊前に夕食がてら訪れる人もいた。しかし、観光客の減少に伴い定食の提供をやめた。現在はミルピスが中心だ。

ミルピス商店で販売する商品(すべて自家製無添加):ミルピス、柿酢ジュース、野グミジュース、こくわジュース、グスベリジュース、ギョウジャニンニクジュース、利尻昆布ジュース、アロエジュース、ハマナスジュース、ヤマブドウジュース、しそジュース、キンカンジュース、いちごジュース、にんじんジュース、甘夏みかんジュース、みかんジュース(以上すべて350円)、おにぎり二個(350円)、ゆで玉子二個(100円)、アロエ酒(400円)、キンカン酒(400円)

▼ミルピスや自家製ジュースなどを入れている冷蔵庫。▼右:おやつも出してくれる

ミルピスは半世紀の歴史を持つ!

そもそもミルピスはどのようにして生まれたのだろうか。森原さんによれば、ミルピスの始まりは1965年のことだった。酪農家を営んでいた森原さんは、ミルピスの元となる飲み物に出会い、5本の分量で製造方法を教えてもらった。ところが、これが甘すぎたので味の改良を行った。飲んで評価してもらいながら改良を続けること約3年、ようやく現在の味に辿り着いたという。ミルピスの販売開始は1967年であるから、約半世紀の歴史があることになる。

当初カルピスという名称で販売していたが、新たな名称を考案。「ミルミル」「ミルミルミルク」などいろいろ考えた中から命名したのが「ミルピス」だった。森原さん曰く、由来は「ミルク」だからという単純な発想だが、とても良い名前だと好評だ。カルピスでは?と尋ねられることもあるそうだが、まったく別物であるため「違うよ、カルピスじゃないよ」と否定する。

ピークは20年前、夜寝ないで原液を作ってた時も


ミルピス販売のピークは20年前。当時は大学生が男女問わず訪れていたころで、観光シーズンになれば一日何百人と来店していたこともあった。そのため森原さんは夜寝ないでひたすらミルピスの原液を作っていた。客が店内に入りきらず、店外にテーブルを置いてミルピスの販売をしていたこともあったが、中には忙しいのをいいことに飲み逃げする人もおり中止したという。

今は夏季の盆の時期に1日70人くらいが訪れる程度になってしまったが、根強いファンは多い。道外から年に1回は来る人もいれば、利尻島に上陸すれば必ず来る人もいる。感想や感謝の手紙を送ってくれる人もおり、全国にファンがいてつながっているのが嬉しいと森原さんは語る。「さすがに都会なら出来ないけど、ここ(利尻)なら一人でもできる」と話し、利尻の地で営業していることに満足している様子だった。

ミルピスを利尻島以外で飲む方法

ミルピス商店では、180ml瓶入りのミルピス、1.5リットルのペットボトルに入れたミルピス原液、各種果実ジュースを販売する。利尻島内では、観光名所であるオタトマリ沼と鴛泊地区の漁業組合(いずれも利尻富士町)で瓶入りミルピスを販売するほか、島内のホテルでも販売している。

では、利尻島に行けないが飲みたい場合どうすればよいのか。実はミルピス商店では、電話・FAXでも注文を受け付けており、日本国内どこでも送ってくれるのだ。ただし、ミルピスと果実ジュースともにすべて1.5リットルの原液のみ受け付ける。お値段は一本4000円で、別途送料が必要。冷凍で2~3カ月保存可能で、水で割ったものは3~4日保存できるが、早めに飲んでほしいとのこと。

森原さんによれば、通常利尻島で購入すると180ml瓶で350円だが、原液を購入して自分で割って飲めば、一本あたり122円くらいで飲むことができお得だそうだ。水で割るだけでなく、炭酸や焼酎で割ったり、かき氷のシロップ、シャーベットとしても良い。子供にはいちごジャムを入れたりしても美味しい。

利尻島に行くことができなくても、自宅で利尻の味を楽しむことができるので、気になった方は是非オーダーしていただきたい。病みつきになること必至だ。

<取材協力>
ミルピス商店・森原八千代
097-0401 利尻郡利尻町沓形字新湊153番地(道道105号線沿い)
TEL/FAX:0163-84-2227