愛の国から幸福へ!カップルに大注目の愛国駅~幸福駅を巡ろう

【帯広市】現在、十勝管内の鉄道といえばJR根室本線しかないが、かつて帯広から十勝南部へは広尾線、北部へは士幌線が延びていた。そのうち南部の広尾線は帯広駅から中札内、更別、幕別町忠類、大樹町を経て広尾町の広尾駅まで84kmを結んでいた。駅の数は帯広を含め全部で17あったが、1987年2月2日に全線を廃止した。

そんな広尾線沿線の中でも最も有名なのは、愛国駅と幸福駅であろう。1973年3月5日にNHKのドキュメンタリー番組「新日本紀行」(30分)で『幸福への旅~帯広~』として紹介。これがきっかけとなり、縁起が良いとして、幸福駅と、帯広寄りにある愛国駅とをもって、「愛国から幸福ゆき」の切符が若者たちを中心に観光客や鉄道ファンに大人気となったのだ。


1974年11月には芹洋子が歌う「愛の国から幸福へ」が大ヒット。こうした事情も相まって両駅を訪れる人も増加し、切符だけでなく関連グッズも数多く制作され飛ぶように売れた。切符は1978年7月までに1000万枚を突破、結局1300万枚の販売、約5億円を記録したという。今も家にこの切符を1枚は持っているという人も少なくはないのではないだろうか。

一時期の「愛の国から幸福へ」ブームが去り鉄道が廃止された現在も、帯広を代表する観光名所として多くの観光客が両駅を訪れている。愛国駅も幸福駅も跡地と駅舎は保存・公園化されているが、愛国駅よりも幸福駅のほうが訪れる人は多い。では、今もその面影が残る両駅間を巡ってみよう。

▼北側(帯広寄り)から順に愛国駅、大正駅、幸福駅

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蒸気機関車も鉄道器具も保存する愛国駅跡「愛国交通記念館」


1929年11月2日に開業した旧広尾線愛国駅は、起点となる帯広駅から11kmのところにあった。愛国というのはここの地名で、開拓団「愛国青年団」に由来するという。駅前は人通りの少ない静かな住宅地となっている。現在は愛国交通記念館として整備されており、駅名標や蒸気機関車が保存され、駅舎だった赤屋根の建物内に入ることもできる。

旧駅舎内には、廃止当時の運賃表と発車時刻表、通標閉塞器、思い出の鉄道道具として駅員関連道具、乗車券、スタンプ、お別れ会の様子の写真パネル、1987年2月1日の最終832D列車(広尾→帯広)「さよなら広尾線」マーク、駅構内図、歴史年表などが設置されている。また、駅舎内壁面には名刺やメモが所狭しと貼り付けられている。










駅舎裏はホームで、レールと共に廃止当時のまま保存されている。現在は廃止時の1面1線であるが、駅舎内にある構内配線図からもわかるように、かつては相対式2面2線のホームに加え、駅舎北側に切欠き貨物ホーム、東側に側線2本を有し、列車の交換が可能であった。かつてはここから札内川産の砂利を貨物で運んでいた。

ひときわ目を引くのが黒々とした蒸気機関車9600型19671号機(でかぐろ)の静態保存である。1918年3月28日に川崎造船所で製造された機関車は、全長16.56m、幅2.61m、高さ3.81m、重量94.85tの870馬力、最高速度65km。石炭は6t、水量は13m2搭載できた。1975年5月4日に運用を停止するまで道内各地で運用され、地球のおよそ55周半に及ぶ2,216,098kmを走行したという。


駅前に目を向けてみると、愛国から幸福への巨大切符を看板に掲げた錆びたヨ3500形車掌車が置かれており、かつて売店として再利用されていたが、現在は活用されていない。駅横にある切符のモニュメントで記念撮影するのがお決まりである。




木造の小さな駅舎とオレンジの車両がある幸福駅跡「幸福ふれあい広場」


帯広駅から22kmの地点にある幸福駅はもともと1956年8月26日に仮乗降場として設置され、同年11月1日に駅に昇格した。幸震という地名を改称した際、福井県からの移住者が多いことから、両方から一文字ずつとり幸福となった。周囲は畑の中にある幸福駅は、営業当時乗降客数一日13人とわずかだったが、「幸福ふれあい広場」として周辺約8000m2が整備された現在では、年間約10万~15万人が訪れる観光名所となった。

駅跡構内は1面1線の無人駅で、線路と板張りのホームと小さな木造待合所(1.82mを基準に東西は2倍の3.64m×南北は1.82mの入口を含む3倍の5.46m=面積19.87m2、高さ最大4.09m)、駅名標が保存されている。建物内部には名刺やメモ類が天井も含め所狭しと貼り付けられている。収まりきらずに建物の外側にも貼られているのだから驚きである。






オレンジ色に塗装されている車両は2両あり、キハ22 221とキハ22 238。モーターカー1両もその奥に静態保存される。木造駅舎からホームへ続く通路には幸福の鐘が設置され心地よい鐘の音が周囲に響く。





2002年6月以降帯広市では、駅でウェディングを体験できる「幸福駅ハッピーセレモニー」を開始、毎年夏季限定で開催している。こうした取り組みが功を奏し、2008年7月1日にはNPO地域活性化支援センター(静岡県)により「恋人の聖地」に愛国駅とともに選定された(道東初認定)。またその人気により、2013年「マイナビ」の調査「二人で行きたい恋人の聖地」で1位に選ばれている。このように幸福駅は恋人たちの定番スポットとして近年注目を集めている。

観光地化したこともあって、約36台(バス5台含む)の駐車場が整備され、駅舎前に売店が2つ営業している。2006年3月12日には帯広広尾自動車道が延伸開通し、幸福ICから約1kmとアクセスも向上した。

▼幸福駅の再整備事業で木造待合所改築へ
建築から57年が経過し老朽化していることから、2013年9月2日から11月上旬にかけて駅舎は再整備事業のため立入禁止となった。駅舎内の名刺などは撤去され解体、改築となる。帯広市の計画では、駅舎は強度強化しほぼそのままの姿に生まれ変わり、ガーデンウェディングが可能な屋外チャペルを建築、ディーゼルカーのうち1両は内部に入ることができるようにする。2013年11月16日には新装オープンとなる。幸福駅はより一層恋人の聖地としての魅力を高めていくことになる。

幸福と愛国に挟まれた「たいそう幸福」な駅「大正駅跡」


幸福駅と愛国駅が有名だが、両駅に挟まれた大正駅も忘れないでおきたい。「愛国から幸福へ」ブームのさなか、大正駅をもじって「たいそう幸福」という縁起ものの切符も発売されているのだ。

かつて駅構内は、単式ホームと島式ホームを含む2面2線で構成され、島式ホームはうち片面は側線、切欠きホームの貨物側線を有していた。廃止された現在は、駅前広場跡地「大正ふれあい広場」に木造ホームと駅名標が再現されている。

1970年代に一大ブームを巻き起こした旧国鉄広尾線の愛国駅と幸福駅。縁起の良い駅として現在もカップルを含め観光客が大勢訪れている。恋人の聖地として近年再び注目されているので、行ったことがある人もそうでない人も、是非訪れていただきたい。