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温泉でコーヒー収穫?!弟子屈町で続く、温泉の可能性を広げる大きな挑戦

「温泉」と聞くと、季節ごとに表情を変える露天風呂や硫黄の香りなど入浴や宿泊を思い浮かべる方がほとんどでしょう。しかし、温泉という地球の恵みをさらに別の形で活かす試みを続けている法人が弟子屈町にあります。今回はその医療法人「共生会(ともにいきるかい)」を特別に見学させていただき、経営企画部長の渡邉明子さんにお話を伺いました。

共生会が本拠を構えるのは道東を代表する温泉地のひとつ、川湯温泉です。常に噴煙を吹き上げているアトサヌプリ(硫黄山)・屈斜路湖や摩周湖がすぐ近くにある自然環境に恵まれた土地で、その自然を活かした地域密着型の医療を行なっています。

運営のモットーは「自給自足」と「医食同源」。それを達成するために、豊富な温泉をはじめとする自然の恵みがフル活用されています。

温泉を「自給自足」のベースに

▼道産木材で建てられた川湯の森病院
温泉でコーヒー収穫?!弟子屈町で続く、温泉の可能性を広げる大きな挑戦

共生会が温泉街にある病院の経営を引き継いだのは2009年。現在、敷地内には2012年に新築された新病院と高齢者向けの有料老人ホームがあり、旧病院も改装されて単身者用の住宅として使用されています。これらの施設を運営するためのエネルギーと食料を「自給自足」で賄ううえで、温泉の熱エネルギーが大きな役割を果たしているそうです(食料については次の見出しの中で取り上げます)。

旧病院の1階には「エネルギーセンター」がありますが、そこには温泉水を溜めるタンクや地下水のポンプが並び、びっしりとパイプが張り巡らされています。このパイプには11台もの熱交換器が設置されていて、敷地内すべての建物の冷暖房と給湯の一部をこの温泉熱で賄っており、化石燃料の使用量はほぼゼロに抑えられています。

▼エネルギーセンター内の温泉タンク
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▼熱交換器(パイプを挟むように取り付けられる青色の装置)
温泉でコーヒー収穫?!弟子屈町で続く、温泉の可能性を広げる大きな挑戦

さらに電力の面でも自給自足を目指していて、太陽光パネルで発電した電気を全て施設内で使用しているほか、試験運用の段階ながら温泉熱を使ったバイナリー発電にも挑戦中。エネルギーセンターの一画にロータリー発電機が3台設置されています。

▼バイナリー発電システム
温泉でコーヒー収穫?!弟子屈町で続く、温泉の可能性を広げる大きな挑戦

温泉のお湯は約60度。発電に使用するには温度が低いため「温泉で10キロワット発電する」という目標にはまだ届いていませんが、もしこの低い温度で目標を達成できれば全国的に注目される施設になりそうで、今後の改良が楽しみです。

温泉を「医食同源」のベースに

共生会のもうひとつのモットーは「医食同源」です。医食同源とは、薬と食べ物は源を同じくするもので、食事に気を配ることは病気の予防や治療に役立つという考え方。そのような食材を提供するうえでも温泉が役立っています。

共生会には医療法人では珍しい「農園課」があり、専門スタッフが栽培した安心の食材を病院食に使っています。その野菜は敷地内にある3棟のビニールハウスで育ちますが、そこにはエネルギーセンターから温泉熱の熱風が送り込まれていて季節に関係なく収穫が可能です。

▼野菜を育てるビニールハウス
温泉でコーヒー収穫?!弟子屈町で続く、温泉の可能性を広げる大きな挑戦

▼熱風が送られるビニールハウス
温泉でコーヒー収穫?!弟子屈町で続く、温泉の可能性を広げる大きな挑戦

▼ハウス内には常に温風が送られる
温泉でコーヒー収穫?!弟子屈町で続く、温泉の可能性を広げる大きな挑戦

栽培されている品種も多く、特に葉物の野菜やミニトマトなどは寒さが厳しい冬季間でも収穫できるため、病院食のサラダはほぼこの温室育ちの野菜だけで提供できるというお話でした。

▼収穫された野菜は病院食に使われる
温泉でコーヒー収穫?!弟子屈町で続く、温泉の可能性を広げる大きな挑戦

温室で育てているものの中でとても興味深いのはコーヒーの木です。コーヒーの栽培は6年ほど前に、「美味しいコーヒーが飲みたい」という入院患者さんの要望から始まりました。

自給自足の原則を貫き(コーヒー豆を購入するのではなく)木を植えるところから始めるという発想に驚き、南国の木というイメージのコーヒーが厳冬の地で成長しているのを見てさらに驚きました。やはりその寒さが生育の障害となったようですが、2018年に初めて約300グラムのコーヒー豆を収穫、実際に試飲したそうです。

▼成長を続けるコーヒーの木
温泉でコーヒー収穫?!弟子屈町で続く、温泉の可能性を広げる大きな挑戦

▼赤く色づくコーヒーの実
温泉でコーヒー収穫?!弟子屈町で続く、温泉の可能性を広げる大きな挑戦

コーヒーの木は2月に花が咲き始め8月に実がなるということで、取材時はちょうど谷間の時期。それでも赤く熟し始めたコーヒーの実を見ることができました。今年はさらに収穫が期待できそうということで、患者さんもきっと楽しみにしていることでしょう。

今後のプロジェクトにも注目!

このように「自給自足」と「医食同源」を実現するために、温泉などの自然エネルギーが施設内でフル活用されていますが、「これをもっと大きなところでできれば、自給自足の村ができる」という渡邉さんの言葉が非常に心に残りました。またこの自然豊かな環境と医療法人としてのノウハウを、温泉街に訪れる観光客を含めたより多くの方の健康的な生活に役立てたいとも考えておられるようです。

今後の自然エネルギーの利用拡大と低炭素化への取り組み、また観光と医療を組み合わせたアイデアがどのように実現していくのか大変楽しみになりました。

実はそのアイデアはすでに一部実施されています。敷地内に整備されている「森のあしゆ」は地域の方のために一般開放中。医療法人のアイデアらしい歩行浴ができる大きめの足湯で、そこには熱交換された後の温泉がかけ流しで使われています。

▼地域の方に開放されている足湯「森のあしゆ」
温泉でコーヒー収穫?!弟子屈町で続く、温泉の可能性を広げる大きな挑戦

▼広々とした足湯
温泉でコーヒー収穫?!弟子屈町で続く、温泉の可能性を広げる大きな挑戦

▼足湯に設置された図。温泉水とエネルギーの利用方法が分かる
温泉でコーヒー収穫?!弟子屈町で続く、温泉の可能性を広げる大きな挑戦

温泉水がどんな経緯でこの足湯に注がれているかを知れば、そのありがたみを一層感じられることでしょう。穴場の足湯で癒されながら、ちょっとだけ地球環境のことも考えてみるのはいかがでしょうか。

取材協力
医療法人 共生会
公式サイト
(通常は施設内の見学は行なっていません)
川湯の森病院 森のあしゆ:利用無料

筆者について

髙野紀康

髙野紀康

1974年生まれ、江差町出身。日帰り温泉の湯守をしながら、年間100軒以上の温泉を巡る。温泉ソムリエマスター・温泉入浴指導員ほか6つの温泉資格を持つ。「北海道は1つの大きな温泉郷」をモットーに、全道を走り回っている。