元診療所を家具の診療所に―白衣の家具職人が下川町で挑む憩いの場づくり

上川管内下川町東部、一の橋地区にある家具工房「森のキツネ」が、2019年5月を目標に、元診療所をリノベーションして「家具乃診療所」をオープンしようと活動しています。なぜ下川町に家具の診療所を開設するのか、またどのような構想を持っているのか、「森のキツネ」を営む家具職人に話を伺いました。

下川町に家具工房を開設した理由

「家具乃診療所」予定地となる建物で出迎えてくれたのは、医者のように白衣に身を包んだ河野文孝さん。11年前に家具作りを学ぶため埼玉県から北海道北見市に移住し、東川町、剣淵町、愛別町で職人として働きました。

とある職場で、「どうしても使い続けたいからこの椅子をなんとかしてくれ」というお客さんの声に社長が丁寧に対応している姿に刺激を受け、次第に自分だけの家具工房がほしいと思うようになったそうです。

新天地の条件にしたのは、森に囲まれ、動物が多く、すぐに森に入れる環境、そして機械を導入しても耐えられる平屋の建物でした。友人の紹介で訪れた下川町は面積の9割が森林地帯であり、町内には製材・乾燥までを行っている工場があって下川町産の木材を謳えるのが大きな魅力だったと河野さんは振り返ります。旭川以北には家具修理専門店がないのも、下川町に「家具乃診療所」を作る理由の一つです。

「森のキツネ」という屋号にしたのは、人間と動物の世界の中間地点で暮らしているキタキツネのように、森と人里を行き来しながら家具づくりをしたかったからだといいます。

思い出の家具を修理し受け継ぐために

「家具乃診療所」の予定地(約500坪)は、本物の診療所として長年、町民の憩いの場となってきた場所です。眼の前にある名士バスのバス停名も「診療所前」のままです。河野さんは、この建物をリノベーションし、かつて地元の人達への診察が行われていたように家具の診察を行いたいと計画しています。

診療所ぶりは徹底しています。建物に向かって左手は診察室とショールーム、右手に手術室と工房、奥には入院できるスペースも確保。その家具がその人にとってなぜ大切か、どうしたいかをくみとり応えるために個別のカルテを作るほか、レントゲンと称して家具の図面や、処方箋として家具のメンテオイルを出すなど、くすっと笑える仕掛けづくりをしたいと河野さんは微笑みます。

このように、長年使い続けてきた大切な家具に関する悩み相談を受けたり、他社製も含めて家具を修理したり、身体・住居・好みに合わせて家具をリサイズしたり、見慣れない樹種や自分好みの木を探して自分だけの家具を作ったり、パーツをカスタマイズしたりと、様々な診療を行う予定です。もちろん、家具の購入や、オーダーメイドの家具づくりもします。

さらには、ショールームでカフェを営業したり、下川町産クルミを絞ってオイルを抽出するワークショップを開いたりと、家具にとどまらない様々な構想も抱いています。「来た人が楽しめたらいい」と話しており、子どもも含め、誰もがふらっと気軽に遊びに行きたくなるような憩いの場所を目指しているのです。

河野さんには5年後、10年後のイメージもあるといいます。「今まで作られてきた家具に使われている素材を、新たな価値観を提供出来るモノにシフトしていきたい」と河野さん。そのためには、修理や個人のニーズに答えられる環境を整え、そこから得られるスキルを身につける必要があるそう。家具乃診療所はその一歩となることでしょう。

森林のまち下川町で一人の家具職人が行う挑戦は、クラウドファンディングとして実施中です。2018年11月30日まで。詳しくはCampfireのページをご覧ください。