函館・十字街交差点にたたずむキノコみたいな塔はいったい何?


【函館市】 かつて函館一の繁華街だった函館・十字街。函館駅から谷地頭方面と函館どつく方面へ分岐する交通の要所でもある。この交差点角地に、謎の塔が建っているのをご存じだろうか。

形はキノコ型。支柱の上に、人が入れそうな小さな部屋がある塔だ。登れないようなってはいるものの梯子も設置されている。気にしない人は気にしないのかもしれないが、この塔が交差点角地、それも車道と歩道の間に建っており、なぜこんなところに?と不思議に感じてしまう。

果たして、この塔はいったい何なのだろうか。調べてみると、市電と関係するものであり、現存するものとしては国内最古ということがわかった。

市電のポイントを切り替える場所だった

先述の通り、十字街は交通の分岐点である。そして函館市電の分岐点でもある。十字街電停から谷地頭方面と函館どつく方面へ分岐する。分岐するためには、進行方向を切り替えるためのポイントが必要で、それを操作する作業も必要になる。

当初は、交差点近くに信号手詰所が設置され、信号手が車道を横切って軌道に立ち入って切り替え作業を行った。しかし、自動車が増えると安全性に問題が出てきた。そこで、1938年以降ポイント操作を電動化することにした。それでも現場を見ながら操作を行う人が必要だったので、キノコ型の市電操車塔(Switch Tower)が設置されていった、というわけ。

操車塔は5.4mという高さで、支柱の上に乗っかる制御室は直径1.9mという小ささ。この中に職員が登って入り、電車信号表示とポイント切り替えを目視しながら遠隔操作していた。

かつて6基あり、最後まで残った十字街のものは国内最古

資料によれば、1969年当時このような操車塔が函館市内に6基あったという。今でこそ函館市電の分岐は十字街のみだが、かつての電車運転系統図を見ると系統が複雑で、宝来町、松風町、函館駅前、五稜郭公園前、ガス会社前(亀田)にも分岐があり、それぞれに十字街のような操車塔が設置されていた。それも廃線や自動化に伴って廃止・撤去されていった(参考までに一部廃止路線は下記の通り)。

1978年11月:ガス会社前(亀田)~五稜郭駅間廃止(1つの分岐を廃止)
1992年4月:宝来町~松風町間廃止(2つの分岐を廃止)
1993年4月:函館駅前~ガス会社前~五稜郭公園前間廃止(2つの分岐を廃止)


今回紹介している十字街交差点の市電操車塔は1939年9月に設置され、少なくとも1993年4月の一部路線廃止以降は、函館市内で唯一・最後の現役操車塔として1995年6月まで使用されていた。ちなみに設置当時は現在地ではなく、交差点向かい側に建てられていたが、道路改良や北海道銀行十字街支店建築に伴い、廃止後の1995年9月に現在位置に移設保存した。

使用停止から約20年。今も当時の姿が現場に残されているのは全国でもここだけで、そういう意味では国内最古とされる。他では見られない貴重な市電操車塔を函館で見つけていただきたい。