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民謡の王様と称される江差追分―その起源と伝承の歴史に迫る

道内各地の特産品や地場産業の話題をお伝えする連載「北洋銀行この街紹介」。今回は、檜山郡江差町からお届けします。

道南に位置する江差は、古くから日本海の恩恵を受けてきた港町です。かつてはニシン漁にて栄え、ニシン交易によってさまざまな文化が伝えられ、育まれてきました。その中のひとつが、江差追分です。民謡の王様とまで称される江差追分がどのように生まれて伝承されてきたのか、紐解いていきましょう。

哀調が加わって生まれた江差追分

江差追分の起源は、長野県の古い馬子唄にあるといいます。盲目の旅芸人・瞽女(ごぜ)さんや参勤交代の武士たちによって、馬子唄は越後へ伝わり、山野のメロディーはいつしか海辺のメロディーへと変遷して越後追分となります。

さらに越後追分は船乗りによって蝦夷地と呼ばれる北海道に伝えられ、この辺境の地ならではの哀調が加わり、やがて江差追分が生まれたのです。その発生は江戸時代中期以降とも言われていますが、自然発生的なものなので、確定はできないようです。

▼ニシン漁に栄えた街並みを再現した「いにしえ街道」
民謡の王様と称される江差追分―その起源と伝承の歴史に迫る

それほどまでに長い歴史を持つ江差追分。自然発生ながらきちんと現代にまで伝承されてきた理由のひとつが、音符(曲譜)の存在でした。口伝えだった江差追分をきちんと五線譜にしようという試みが、明治末期以降にいろいろな人々によって行われたのです。さまざまな音符が作られ、中には実際に洋楽と同じ記号の五線譜に表したものもありましたが、現在は1974(昭和49)年に制定された「江差追分基本譜」が使われています。

▼江差追分基本譜
民謡の王様と称される江差追分―その起源と伝承の歴史に迫る

一見して、私たちの知っている五線譜とずいぶん様子の異なることが分かります。黒い丸やくるっと輪を描いたもの、太いひげや細いひげに見えるものが、それぞれに独特な江差追分の節回しを表しています。さらには一段目すべてが「かもめの」というたった4文字に対する譜だということに驚かされます。

江差では現在、小中学生が江差追分を授業で習っています。また、町にはあちこちに江差追分を教えている追分道場が見られます。

▼いにしえ街道にある追分道場
民謡の王様と称される江差追分―その起源と伝承の歴史に迫る

話を歴史に戻しましょう。発展を遂げた江差追分は、やがていくつかの流派を生み出します。そこで1935(昭和10)年、当時の江差町長が各流派の師匠たちを説得し、自身が会長に就任して「江差追分会」を発足。ようやく江差追分は完全に統一されます。

さらに1963(昭和38)年には全国大会が開催され、現在に至るまで56回大会続いています。江差は、真に追分のメッカとなったのです。

これからの江差追分を担う三姉妹

2017年、江差町が申請した「江差の五月は江戸にもない-ニシンの繁栄が息づく町-」というタイトルのストーリーが「日本遺産」に認定されました。これは、地域の歴史的や特色を通じて、我が国の文化・伝統を語るストーリーを「日本遺産」として認定し、有形無形の文化財群を支援する制度。江差町が申請したストーリーには、江差追分も文化財として組み込まれています。

▼寺島三姉妹(写真左から次女・絵美さん、長女・絵里佳さん、三女・真里絵さん)
民謡の王様と称される江差追分―その起源と伝承の歴史に迫る

日本遺産の文化財として認められた江差追分。その歴史と伝統を担うニューカマーが、寺島三姉妹です。

1983年生まれの長女・絵里佳さんは、2003年開催の第41回江差追分全国大会にて優勝。1984年生まれの次女・絵美さんは、2006年開催の同大会にて優勝。そして今まさに優勝を目指して邁進中の1987年生まれの三女・真里絵さんを加え、三姉妹は地元ではちょっとした有名人です。特に長女の絵里佳さんはプロの民謡歌手として活躍しています。

絵里佳さんは言います。

「江差追分には悲しみがあり、他の民謡とはどこか違うように感じます。私はまだ経験が浅いですが、江差追分を伝え、残していくことが宿命だと思っています」

一度聴くと、のめり込む人も多いという江差追分。その魅力は、やはり実際に触れてこそ伝わるものなのかもしれません。興味を持った人、また江差を訪れる機会のある人は、ぜひ江差追分会館・江差山車会館へ足を運んでみてください。

▼江差追分会館・江差山車会館
民謡の王様と称される江差追分―その起源と伝承の歴史に迫る

ここは、江差追分をはじめとする郷土芸能などを体験できるスポットです。江差追分の実演を鑑賞できる他、唄の体験教室も開かれています。前出の基本譜の読み方も教えてもらえるので、より理解が深まるはずです。

人々によって唄い継がれ、大切に守られてきた江差追分は、江差の町にしっかりと息づいています。そして今、若い唄い手がさらに後世に伝えるべく、奮闘しています。歴史や文化というものが、市井の人によってこそ紡がれていくのだということを、江差追分は改めて示しているのかもしれません。

北洋銀行江差支店

民謡の王様と称される江差追分―その起源と伝承の歴史に迫る

所在地:檜山郡江差町字中歌町62番1
電話:0139-52-0123

江差追分会館・江差山車会館
所在地:北海道檜山郡江差町中歌町193-3
電話:0139-52-0920
入館料:大人500円、小中高校生250円
開館時間:9時~17時
休館日:月・祝日の翌日、12月31日~1月5日(4~10月は無休)
実演:4月下旬~10月末 11時、13時、15時の1日3回(江差追分全国大会開催日を除く)

取材協力

江差追分会
所在地:北海道檜山郡江差町字中歌町193-3
電話:0139-52-5555
公式サイト
江差町追分観光課
所在地:北海道檜山郡江差町字中歌町193-1
電話:0139-52-1020(代表)
公式サイト

筆者について

石簾マサ

石簾マサ

すべてのしがらみを捨て札幌で永住するぞ……と移住してきた50代のおっさんライター。札幌楽し~い。移住者が見た札幌の楽しさ・良さを伝えていければ……と思っております。【編集部専属ライター】