火を通すと糖度30度に!強烈な甘味を秘めた幻のタマネギ「札幌黄」

「さっぽろき」という少し不思議な名前を聞いたことはあるでしょうか? もしかすると「札幌黄」と漢字の表記を見た方がピンと来るかもしれません。札幌黄とは、タマネギの名前。その名の通り、札幌市を中心に作られている品種です。一時期は生産量が激減したため、幻のタマネギとまで言われた札幌黄。それでも復活した背景には、関係者や生産者の熱い思いがあったようです。そんな札幌黄の歴史を紐解くと共に、他のタマネギとひと味違う魅力に迫ってみましょう。

札幌黄、その波瀾万丈の運命

札幌黄の原種と言われているのは「イエロー・グローブ・ダンバース」という品種。明治10年、クラーク博士の後任として札幌農学校に着任したウィリアム・P・ブルックス博士が、故郷であるアメリカ・マサチューセッツ州から持ち込んだとされています。ブルックス博士の指導により、多くの農家がタマネギ栽培を始めたものの、当時はタマネギなど存在すら知らない人がほとんど。販売されるまでには至りませんでした。

そんな折、後に「タマネギ栽培の祖」と呼ばれるようになる中村磯吉が、広大な畑でのタマネギ栽培を成功させます。長期保存が可能なことなどから、航海用などとして販路も徐々に広がり、また流通面の整備も追い風となって、1880年(明治13年)以降、タマネギ栽培は急速に拡大していきました。

さて、文献に「札幌黄」の文字が登場するのは、1902年(明治35年)のこと。北海道農事試験場によって研究が進み、優良品種として認定されたのです。ちなみに「札幌黄」という品種名が農事試験場によって名付けられたものなのか、農家の間でそう呼ばれていたのかは、分かっていません。この頃から札幌黄は海外にも輸出されていたという記録が残っており、生産量はますます増大していきます。

しかし、順風満帆というわけにはいきませんでした。関西地方で米の裏作としてタマネギ栽培をする農家が急増し、タマネギの一大産地であった北海道は大正時代にトップの座から転落します。さらに昭和の大戦中に北海道のタマネギ栽培は大打撃を受け、全盛期には全国収穫量の実に半分以上を占めていた収穫量は、わずか3パーセントにも満たない状況にまでなってしまいました。 こうした状況を打破すべく、関係者は札幌黄に改良を加え、官民一体となって増産に励みます。昭和40年代、北海道はようやく「日本一のタマネギ産地」の称号を取り戻し、札幌黄は絶頂期を迎えました。

ところが、またしても札幌黄受難の時代が! F1種なる技術の台頭により、病気に強く、収量が多く、大きさが揃っているタマネギが開発されたのです。そんな夢のようなタマネギを前に札幌黄はなすすべもなく、生産量を激減させていきました。これが、札幌黄が「幻のタマネギ」とまで言われるようになった所以です。

それでも札幌黄が本当に幻になってしまわなかったのは、ひとえに関係者や数軒の農家の人たちの努力によるものでした。「この品種を絶やしてはならない」という強い使命感から、細々と作り続けていったのです。そして今、その思いはようやく実を結び、スローフード運動「味の箱舟」(詳細についてはスローフードフレンズ北海道のHPにて)の認定を受けるなど、札幌黄は徐々に見直されつつあります。

実際に食べられるお店はココ!

関係者や農家の人たちから、絶やしてはならないとまで言われた札幌黄。実際にどんな味がするのか、気になってきたのではないでしょうか? そこで、札幌市内で札幌黄を使った料理を手軽に食べられるお店をご紹介しましょう。

札幌黄文化を残したいという思いから生まれたお店「温故知新ブルックスカレー食堂」

▼白と緑のコントラストが印象的な建物

まずは温故知新ブルックスカレー食堂伏古店です。2010年12月にオープンしたカレー専門店なのですが、実は、ただのカレー専門店ではありません。なんと札幌黄文化を残していきたいというオーナーの思いから生まれたお店なのです。

「札幌黄は生食だと辛味が強いんですが、煮込むと甘さが出てきます。まさにカレーにはうってつけのタマネギなんですね」と語るのは、店長の池田美香さん。その言葉通り、ここのカレーを食べてみると辛さと濃厚な旨味の中に、タマネギの甘味をしっかりと感じ取ることができます。なんでも、カレー一皿に札幌黄まるごと一個を使用しているのだとか。

▼まるごと札幌黄と柔らかビーフのビーフカレー(税込1,080円)

中でもオススメなのは、なんと札幌黄がひと玉ドンと乗った、見た目にもインパクト大な「まるごと札幌黄と柔らかビーフのビーフカレー」。つまりはこの一皿に、実にまるまる二個もの札幌黄が使われているということ。札幌黄を心ゆくまで堪能したい方は、食べないわけにはいかないでしょう。

▼優しい笑顔で迎えてくれる店長の池田美香さん

温故知新ブルックスカレー食堂伏古店
所在地:札幌市東区伏古8条3丁目1-25 マサミツビル 1F
電話:011-785-5766
定休日:不定休
営業時間:平日11時~15時、17時~21時(L.O.30分前)、土日祝11時~21時

オーナーが札幌黄に惚れ込んだ!「カリーハウスパークポイント」

▼店の外にも堂々たる「札幌黄」の文字が!

札幌市電に乗っていると目に飛び込んでくる「札幌黄」の文字。カリーハウスパークポイントは、札幌黄にとことん惚れ込んだという高瀬昭則さんがオーナーを務めるカレー専門店です。道路に面したウィンドウやのぼりにまで札幌黄の文字が記され、その熱い思いは店に入る前からビシバシ伝わってきます。高瀬さんに、改めて札幌黄の魅力を聞いてみました。

「他の品種とは全然違います! 札幌黄は火を通すとタマネギ特有のくさみがなくなって、甘味が増して、糖度が30度にもなるんです」

一般的に、柑橘類の糖度は10度ほど、ブドウが17~20度とされていて、糖度30度というとそれはもはやシロップやジャムなどのレベル。いかに札幌黄が強烈な甘味を秘めているかが、数値からもよく分かります。

▼インドカリーのシーフードカレー(税込980円)

パークポイントのカレーに使用しているタマネギは、9月中旬から6月の収穫期は100パーセント札幌黄なのだそう。それ以外の時期でも、札幌黄と北海道産の他品種をブレンドしたものを使用しています。カレーの種類もルウカレー、インドカレー、スープカレーと揃っているので、それぞれのカレーの中に生きる札幌黄のおいしさを堪能してみるのもよいかもしれません。

▼オーナーの高瀬昭則さん、収穫期には札幌黄を店頭で販売することも

カリーハウスパークポイント
所在地:札幌市中央区南13条西7丁目2-6 第117Kビル
電話:011-211-6383
定休日:不定休
営業時間:11時~21時

1日10食限定カレーを提供!「ゴーゴーイレブン」

▼西11丁目駅直結、地下1階にある店舗

ゴーゴーイレブンは、ランチタイムもディナータイムも大盛況の人気店。ランチタイムのローストビーフ丼(税込864円)など、肉好きの心とお腹をリーズナブルに満たしてくれます。(詳しくはこちらの記事参照) そんなゴーゴーイレブンがこの夏から提供しているのが、札幌黄を使ったカレーです。

試行錯誤の末、水を一切使わない方法で作られているというこのカレー。札幌黄のしっかりとした甘さとスパイスの刺激が、絶妙なバランスで成り立っています。中に入っている肉は道産牛、ごろりと転がるジャガイモは「インカのめざめ」と、札幌黄以外にも素材へのこだわりが垣間見えます。

それだけでも贅沢なカレーなのに、ライスの上にはなんとローストビーフが! 1日10食限定なので、早い者勝ちですよ。

▼1日10食限定のカレー(税込600円)

▼店内は常に満席、常に行列必至の人気店です

ゴーゴーイレブン
所在地:札幌市中央区大通西11丁目 大通藤井ビルB1F(地下鉄11丁目駅直結)
電話:011-207-5522
定休日:日祝
営業時間:11時30分~14時30分(L.O.14時)、17時~24時(L.O.23時)

ついに札幌黄がアイスクリームに!?「玉ちゃんアイス」

加熱することで果物以上の高い糖度となる札幌黄、なんとアイスクリームにまでなってしまいました。開発に携わったのは、大谷大学と伏古商店街。丘珠で作っている札幌黄を使って、子どもにも大人にも人気の出る商品を作りたいという思いが、出発点でした。札幌黄をジャムにしてアイスに混ぜ込むなど、工夫に工夫を重ねて試作を繰り返しました。こうして出来上がった、その名も「玉ちゃんアイス」。現在はスカイショップおかだまとスーパーマーケットきせつやにて購入可能です。

気になるその味ですが、タマネギの風味はかすかに感じ取ることができる程度。最初は少し違和感を感じるかもしれませんが、だんだんとそのまろやかな甘さにハマること間違いなし! 話のタネに、ぜひ一度ご賞味あれ。

▼ネーミングもかわいい玉ちゃんアイス(税別260円)

スカイショップおかだま
所在地:札幌市東区丘珠町丘珠空港内2階
電話:011-785-5411
定休日:なし
営業時間:7時~17時30分

スーパーマーケットきせつや
所在地:札幌市東区伏古5条4丁目1-2
電話:011-786-6990
営業時間:10時~20時

※2016年12月4日付:スカイショップおかだまの名称に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。