無人島「ユルリ島」の野生馬が2年半で半減?! 雌馬だけ6頭に

【根室市】 根室半島南側の沖合に「ユルリ島」と「モユルリ島」という、二つの離れ小島があるのをご存じだろうか。聞くところによれば、ユルリ島には、無人島なのに野生の馬が何頭か生息しているらしい。だが、一般人が島に上陸して確認しに行くことはできない。なぜなら、一般人の無断上陸は禁止されているからだ。

2014年3月、そんなユルリ島のいまを伝える映像が公開された(記事末尾でチェック!!)。撮影したのは道内出身の写真家・岡田敦さん。2011年夏以降、特別な許可を得てユルリ島に何度も上陸、島のいまを写真と映像で記録しているという。

岡田さんによれば、島に生きる馬は この2年半で半減したといい、残った馬はすべて雌馬。つまり近い将来、島から馬はいなくなる。岡田さんに、ユルリ島のいまを聞いた。

無断上陸禁止の島・ユルリ島

ユルリ島とモユルリ島は、根室半島の落石と花咲の間あたりにある島々で、最も近い昆布盛地区からでも約2.6km離れている。アイヌ語で「鵜の居る島」の意味を含む両島は、とも無人島で、モユルリ島(0.3km2)に比べ南側のユルリ島(2km2・周囲7.8km)のほうが面積は大きい。島自体は海岸が断崖で、山がなく台地になっている。

両島は、エトピリカなど貴重な海鳥の繁殖地であるとして、1982年3月31日に「ユルリ・モユルリ鳥獣保護区」に指定、さらには「北海道指定天然記念物」にも指定されており、上陸には根室市の特別な許可が必要。写真家の岡田さんも、島の環境や動植物の調査・研究のための撮影委託という形で、ようやく2011年夏のユルリ島上陸の許可が下りた。

なぜユルリ島に野生馬がいるのか

では、なぜこの無人島に野生馬がいるのだろうか。実は、昆布漁の漁師が運搬用として運び込んだ馬の子孫である。昆布漁の漁師たちが、島を昆布の干場として利用した際、海岸の崖を登って台地上に昆布を運ぶ必要があったのだが、そのために馬を持ち込んだという。最初の1頭は1950年代初頭にやってきて、その後、次々と運び込まれた。

やがて昆布漁の用途を終えた馬たちは、島で自然放牧されることとなった。(1)島にはミヤコザサなど天然の食草が豊富に生い茂っており、(2)島の中央に湿原や、小川も幾つも流れており、(3)積雪量が少なく冬場でもエサに困らないなど、世界的にも稀な環境が幸いした。厳しい冬場はどうしているかというと、前足で雪を掘り、雪の下の食草をエサにしているという。

島の野生馬は2年半で半減、雌馬だけ6頭

島の馬は、多いときには30頭近くが生息していたとされる。しかし、2006年に大きな転機を迎えることになる。生産者が高齢化したこともあり、雄馬すべて(4頭)を本土へ引き揚げてしまったのである。こうして2006年時点で14頭の雌馬しか生息しない事態となった。

その後は島の馬は減り続ける一方。岡田さんが初上陸した2011年8月には12頭いたが、2013年8月上陸時に10頭、2014年2月に6頭と、2年半で半減してしまっていたという。このままでは近い将来、島から馬はいなくなる。

60年続いてきた命の繋がりを記録しなければ

「ユルリ島の馬が今後も子孫を残し、その命が繋がれてゆくのであれば、写真を撮ろうとは思わなかったかもしれません。しかし、約60年続いてきたその命の繋がりが途絶えてしまうということを知ってしまった以上、誰かがそれを記録しなければいけないと感じました」。岡田さんはそう語る。記録を委託されることで、世界に向けて発信でき、根室市や北海道にとっても貴重な財産になると考え、撮影を決意したという。

人知れず、厳しい冬の環境の中でも懸命に生きる馬たち。その姿を、貴重な映像を通して是非ご覧いただきたい。

▼映像はこちら

ユルリ島は北海道の天然記念物に指定されているため島への無断上陸は禁止されている。 本作品は根室市から島の環境及び動植物の調査、研究のため撮影を委託されたものである。―写真家 岡田敦
岡田 敦 写真家 芸術学博士
1979年、北海道稚内生まれ、札幌出身。2008年、”写真界の芥川賞”といわれる木村伊兵衛写真賞を受賞。2010年、映画「ノルウェイの森」(原作:村上春樹、監督:トラン・アン・ユン)の公式ガイドブックの撮り下ろし企画を手掛けるなど、海外からの注目も高い、新進気鋭の写真家である。大阪芸術大学芸術学部写真学科卒業。東京工芸大学大学院芸術学研究科博士後期課程修了、博士号取得(芸術学)。主な写真集に『I am』(赤々舎)、『ataraxia』(青幻舎)、『世界』(赤々舎)などがある。
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※記事中のキャプチャ画像は上の映像より。なお、ユルリ島の映像は定期的に新しいものをアップしていく予定。
※ユルリ島の馬は灯台の周辺にいることが多く、気象条件さえよければその姿は根室・昆布盛の高台から確認できる。また、落石漁業協同組合が運営している落石ネイチャークルーズに乗船すれば、船上から馬の姿を見ることができるかもしれない。