蘭越町の海岸には本当にトドがいるのか?その姿を確認しに断崖絶壁へ

トドの群れが蘭越町の海岸の岩場に出現しているという6年程前のニュースや、蘭越町の河口付近でアザラシの群れが上陸しているという15年程前の話を思い出し、
水族館でしか見られないと思っていたアザラシやトドが地元の海岸で見られるものなのかと驚いたことがあります。

現在ではそのような話はまったく聞きません。あの出来事は一時的なものだったのでしょうか。
しかし昨年、海岸にトドの死骸が漂着したという話を聞き、まだ近場で生息しているのではないか、可能ならば見てみたい思いもあり、調べてみることにしました。

以前の話は本当なのか、現在はどうなのか。

かなり前の話なので、実際に近くに住んでいる方に聞くのが早いだろうと、まずは蘭越町役場へ連絡をとってみました。
アザラシの件では、当時を知っている林務水産係の高田幸則さんにお話を伺うことができました。

高田さんによると、確かに15年程前、蘭越町の尻別川河口でアザラシの群れが確認できたとのことです。
尻別川河口では当時、八目鰻を捕獲する「ドウ」を仕掛けていましたが、冬場河口の水が一面凍った時に「ドウ」につかまった八目鰻を狙ってアザラシが来ていて、漁の被害が出ていたようです。

現場へ行った高田さんの周りを囲むほど多くのアザラシが、人間を恐れることもなく押し寄せていたそうですが、八目鰻がとれなくなったことや、八目鰻の漁師が少なくなったことなどから仕掛けも減っていき、3年ほどでアザラシは見かけなくなったようです。

現在では、ごく稀に1頭見かけるくらい。アザラシにしてみると簡単に手に入る餌があったから現れたという行動だったようです。

▼尻別川河口

では、岩場に現れるトドも同じような理屈なのでしょうか。
寿都漁協磯谷地区浅海部会会長の浦野勝義さんにお聞きしたところ、トドは例年11月頃、千島列島、オホーツク海北部などから来遊し、4月末頃まで越冬しているそう。
しかし、やはり定置網や刺し網を破って餌をとる漁業被害が多く、定置網を強化した網に変えるなどの対策を行っているようです。

さすがにこちらの漁は八目鰻のようにやめる訳にはいきませんから、いまだにトドがやってくるのかもしれません。
以前は海岸のあちらこちらでトドが見られたようですが、最近ではその数は減ったようです。
しかし、人目につかない岩場にはまだいるとのことで、実際に見に行くことにしました。

人目につかない場所=人を寄せ付けない場所

浦野さんは、人から見えない岩場で、天気がよく波が穏やかな日でないとトドを見ることはできないだろうと話します。
道路や海岸から見えない場所となると、海に張り出した断崖絶壁の岬の先でしょうか。

カヤックなどを使って海からアプローチすれば、普段見えない場所にも行けそうですが、
危険度の高い冬場の海に乗り出せるほど技術も経験も度胸もないので、
道はなくとも崖の上からアプローチするしかありません。

約一ヵ月間、天気予報と地図を確認し冬山登山の装備を揃えて通ってみますが、
冬の日本海を象徴するような荒い波が見えるばかりで、空を舞うカモメくらいしか確認できません。

しかし通い出して4回目、毎回確認するポイントへ着くと、波の音に紛れて「ブォォ」と鳴き声が聞こえてきます。
すぐさま崖の淵ギリギリまで寄って、下の岩場を覗き込みますが確認できません。
私のすぐ真下にいるようなのですが、上から確認できない場所があるようです。

鳴き声で居ることが分かった以上、なんとか確認できる場所はないものか、地形図と周りを確認しながら移動すること1時間。
ついに確認することができました。

野生ってすごい! 荒波なんかへっちゃら

大きな岩の上に4頭、海の中泳いでいる2頭、計6頭のトドが確認できました。
親子でしょうか、岩の上にいる茶色いひと際大きな一頭が鳴き声をあげており、
その大きな一頭を囲むように、黒い小柄なトドたちも呼応するように声をあげています。

出会えたことの嬉しさをかみしめつつ撮影をしていると、さらに感動する姿を目撃しました。
泳いでいる2頭が大きな波の中を自由に泳ぎつつ、大きな波に乗ってうまく岩に上がるという、野生でしか見られないような光景です。
岩に打ち寄せる大きな波を当たり前のように利用しているとは、動物園でしか見ていなかった私は、完全に彼らを舐めていました。




1時間程でしょうか、岩の上に登ったり、海の中へ飛び込んだりを繰り返した後、皆海の中へ消えて行きました。

野生の海洋生物を見ることができるのは、自然の豊かさを感じて嬉しいことですが、
漁業被害を考えると、現在陸で問題となっている鹿の増殖による被害と同じような現象ではないかと、考えさせられます。
どちらもうまく共存できる道はないものか、考えていきたいものです。

※ご注意:本稿は現場に行くことを推奨するためのものではありません。断崖絶壁で大変危険な場所であるため、自己責任において行動してください。