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世界でここだけ!阿寒湖のマリモはなぜ丸くなるのか?

  

道内各地の特産品や地場産業の話題をお伝えする連載「北洋銀行のこの街紹介」。今回は釧路市からお届けします。

国の特別天然記念物に指定されている阿寒湖のマリモ。大きく美しい球状マリモは、世界でもここでしか見られないといいます。なぜ阿寒湖にしか球状マリモはいないのでしょうか。どうして丸くなるのでしょうか。

その生態の謎や現在の保護の取り組みについて、釧路市教育委員会生涯学習部阿寒生涯学習課に所属する世界で唯一のマリモ専門研究施設「マリモ研究室」の学芸員、尾山洋一さんに話を伺いました。

世界中にいるのに阿寒湖のマリモだけが貴重な理由

国内でマリモが最初に紹介されたのは1898年、植物学者の川上瀧彌(かわかみたきや)が札幌農学校(現・北海道大学)の学生時代に阿寒湖西岸のシュリコマベツ湾で発見、報告したものでした。川上氏はこれに和名で「毬藻(まりも)」と命名しました。その後、1921年に北海道で最も早く国の天然記念物に、1952年には国の特別天然記念物に指定されました。一方、1997年から環境省レッドリストで最も絶滅が危惧される「絶滅危惧I類」に分類されました。

マリモといえば、「丸くて緑色の形」をイメージする人が多いかもしれません。しかし正確には、球状のものはマリモの生育形態の一つにすぎません。マリモの本体は、中心部から枝分かれした小さな糸状体(しじょうたい)の藻。生育環境の違いによって着生型、浮遊型、集合型に分かれて生活します。姿形は変わっても、すべてが同じマリモです。

阿寒湖では、マリモは下記のような形態で分布しています。

  • 着生型:岩に苔のようにくっついて生育。急な崖の場所などに多い
  • 浮遊型:岩から剥がれてしまったり集合型マリモが崩れてしまったりした綿くず状のもので、水底を漂っている
  • 集合型:マリモを回転させる波の力や湖底の遠浅の地形など、環境が整うと球状マリモになる

▼着生型のマリモ(マリモ研究室で撮影)
世界でここだけ!阿寒湖のマリモはなぜ丸くなるのか?

▼集合体の球状マリモ(阿寒湖畔エコミュージアムセンター展示)
世界でここだけ!阿寒湖のマリモはなぜ丸くなるのか?

実は、マリモは国内外あちこちで確認されているのをご存知でしょうか。北海道では阿寒湖の他に、チミケップ湖、パンケトー、ペンケトー、シラルトロ湖、塘路湖、達古武沼、道外でも琵琶湖や富士五湖などで生育しています。マリモそのものは、決して珍しいものではないのです。

では、なぜ阿寒湖のマリモが貴重かというと、マリモが大きな球状になり、かつ群生する湖沼は阿寒湖以外に存在しないからです。世界ではほかにアイスランドのミーヴァトン湖で球状マリモが群生していましたが、2016年に球状マリモの絶滅を確認。それ以降は世界で唯一、阿寒湖だけが球状マリモの群生する湖沼となってしまいました。

世界唯一! 阿寒湖のマリモはなぜ丸くなるのか?

ところで、阿寒湖のマリモだけ、なぜ球状になるのでしょうか。球状になるには、主に2つの環境要因が整う必要があります。それは、(1)波の力 (2)湖底の遠浅の地形(水深2mくらい)です。

風が湖の上を吹き抜けると、波が立ちます。湖の下では水の動きが回転し、湖底にいるマリモもその場で回転します。回転すると言っても映像を早回ししてようやく確認できるほどゆっくりですが、この動きが重要で、動けないような水深の深い場所だったり風が来ない場所だったりすると波の影響を受けられず丸くなれません。逆に、水深が浅かったり波あたりが強すぎたりすると、すぐに岸に打ち上がってしまいます。

このように、波の力や湖底の地形といった環境がうまい具合にマッチしていないと、マリモは丸く成長できません。そしてこの回転によって、繊維状の藻(糸状体)が一本一本絡まり合い、中心から放射状に伸びる球状マリモが生まれるのです。

最初は中身がぎっしり詰まった球状マリモとして大きく成長していきますが、直径10cmを超えるところから中心部が空洞化します。光が届かなくなり、中心部が枯死して分解されるのがその理由です。

▼元気なマリモは空洞化していてもムッチリした手触り(マリモ研究室で撮影)
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▼直径20cmほどある乾燥マリモの断面。厚さ5cmほどで中心は空洞化。開けると中に小さい塊が入っていることもある(マリモ研究室で撮影)
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こうしてできた球状マリモは、ある程度大きくなると空洞化して比重が軽くなるので岸に打ち上げられやすくなります。阿寒湖では5~7年周期で、強風によりマリモが大量に打ち上がります(最近では2002・2007・2013年)。打ち上がったマリモは岸に打ち上げられると粉々に壊れ、また同じ水域に戻って丸く大きく成長し、5~7年後の強風で再び打ち上げられるというサイクルを繰り返しています。クローンのように崩壊と再生を繰り返しているのが阿寒湖の球状マリモの特徴です。

マリモは阿寒湖のどこに生育しているの?

球状になるのが世界的にも珍しい阿寒湖のマリモですが、阿寒湖の全域に生育しているわけではなく、現在は北部のチュウルイ湾とキネタンペ湾の2カ所に限られています。

▼阿寒湖で球状マリモの群生が確認されているのは北部のチュウルイ湾とキネタンペ湾だけ
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▼立ち入りが厳しく制限されている阿寒湖チュウルイ湾(提供:釧路市教育委員会)
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▼阿寒湖チュウルイ湾の湖底の球状マリモ(提供:釧路市教育委員会)
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この2カ所は、遠浅の地形で南からの風によって球状マリモが成長しやすい環境が今でも残されています。特に、直径20cmを超える大きさの球状マリモはチュウルイ湾だけでしか確認されていません。記録されている過去最大サイズは、1997年に発見された直径34cmのもの。なぜチュウルイ湾だけがマリモを巨大化させるのかは詳しくわかっていません。

阿寒湖に生育する球状マリモの個体数は、今から22年前の1997年に行われた調査によって、チュウルイ湾で4億5,100万個、キネタンペ湾で2億5,500万個、合計で約7億個と推定されています。しかしながら、そのほとんどが直径5cm未満の小型マリモで、直径20cm以上の大型マリモは約2万個程度でした。

▼集合体のマリモはほとんどが5cm未満。最初は形がバラバラ(マリモ研究室で撮影)
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マリモを保護するために

阿寒湖のマリモは、流域の開発行為に伴って何度も絶滅の危機に直面してきました。現在、阿寒湖で球状マリモが確認されているのは北部のチュウルイ湾とキネタンペ湾の2カ所のみですが、1940年代の初めまでは西部のシュリコマベツ湾でも確認されていました。しかし、1920頃から始まった流域での森林伐採の影響によって消失してしまいました。当時、川の流れを使って丸太を運搬する「鉄砲流し」と呼ばれる手法により、土砂や木片が一気に湾に入り込み、次第にマリモが埋まってしまったと考えられています。

シュリコマベツ湾では現在、展示中に壊れてしまったマリモを再び丸めて作製した「マイマリモ」と呼ばれる再生マリモを活用し、地元の子供たちによるマリモ群生地復活のための野外栽培活動が行われています。

一方、球状マリモが現存するチュウルイ湾やキネタンペ湾では、近年、水草がマリモの生育場所を奪っていることが明らかとなっています。1997年と2011年のマリモおよび水草分布を比較すると、2011年にはマリモの糸状体が消失して球状マリモの分布面積も28%減少。一方、水草の分布面積が5倍ほど増加してマリモを取り囲むようになってしまったのです。

▼マリモの生育を阻む水草の駆除に苦慮している(マリモ研究室で撮影)
世界でここだけ!阿寒湖のマリモはなぜ丸くなるのか?

主な要因と考えられているのは意外にも「水質の改善」。阿寒湖温泉街では1970年代まで雑排水を湖にそのまま流していましたが、1980年代から下水道敷設などの湖水浄化対策が行われた結果、水質は徐々に良くなり透明度も高くなりました。きれいになるのは良いことですが、、湖の光環境が改善したことで水草が一気に成長し始めたしまいました。

また、水草が繁茂することで、マリモの回転運動を起こす波の力が弱まっていることもわかってきました。マリモが十分に回転できないとマリモの内部(空洞)に含まれる水が停滞してバクテリアなどによる分解が進行し、結果的にマリモが壊れやすくなってしまいます。

現存するマリモを守るための対策として、チュウルイ湾では水草の刈り取りが行われています。2017年まではダイバーが潜って刈り取っていましたが、昨年度からは地元の方を中心にボランティアを募って刈り取りをはじめました。ハの字状の専用道具で水草を絡ませて引き抜く作業を船上から行うというもので、2018年は約1.1t、2019年は約1.5tの水草を刈り取りました。

▼チュウルイ湾での水草刈取り活動の様子(提供:釧路市教育委員会)
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阿寒湖における球状マリモ保護について尾山さんは、「長期的な活動になるので、毎年様々な人たちに協力いただきながら取り組んでいきたい」とコメントしています。

阿寒湖で本物のマリモを観るには?

阿寒湖のマリモは特別天然記念物に指定されているため、群生地に立ち入ることは禁じられていますし、持ち帰ることもできません。ですから、阿寒湖温泉街の土産店で売られているマリモは阿寒湖のマリモではなく、阿寒湖以外の場所から採取された藻体を人工的に丸めたものです。

本物のマリモを見たいなら、温泉街の外れにある「阿寒湖畔エコミュージアムセンター」に行くか、阿寒観光汽船の遊覧船に乗ってチュウルイ島に上陸、「マリモ展示観察センター」に行くかのどちらか。まだ謎に包まれている阿寒湖のマリモを見に、学びに訪れてみてはいかがでしょうか。

取材協力
阿寒湖畔エコミュージアムセンター・マリモ研究室
※マリモ研究室は一般の人は立ち入りできません
所在地:釧路市阿寒町阿寒湖温泉1丁目1-1
電話:0154-67-4100
開館時間:9時~17時(火曜日休館、祝日の場合翌日休館)

北洋銀行釧路十条支店(クシロジュウジョウシテン)

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所在地:釧路市鳥取大通2丁目2番20号
電話:0154-52-1222

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編集部

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