函館・北斗ロケ映画『そこのみにて光輝く』4月公開―呉監督・綾野剛さん来函

【函館市】 函館市と、隣接する北斗市で2013年6月末~7月中旬にロケが行われた映画『そのこみにて光輝く』が、2014年4月に全国で公開されます。函館市出身の作家・佐藤泰志さん原作、綾野剛さん主演。公開を控えた3月19日には、完成披露試写会と舞台挨拶のために、呉美保監督と綾野剛さんが函館を訪れました。(写真:北斗市東浜の砂浜(製作者提供))

『海炭市叙景』に続く、函館出身・佐藤泰志さん原作の小説映画化第2弾

『そこのみにて光輝く』は、函館出身の作家、故・佐藤泰志さんの小説が原作。佐藤さんは、何度も芥川賞候補に挙がりながら賞に恵まれなかった作家で、41歳で自ら命を絶ちました。佐藤さんの小説『海炭市叙景』は、函館市民の多くのエキストラの協力を得て、2010年に映画化。それをきっかけに、佐藤さんの作品はすべて文庫として復刊。その中で唯一の長編小説である『そこにみにて光輝く』が、今回、3年の歳月をかけて映画化されました。

企画・製作をしたシネマアイリス代表・菅原和博さんは「町おこし映画ではなく、函館にありがちな観光地的な面をあえて排除した。見たことのない函館の景色がそこにあることによって、逆に函館らしさを感じられる作品となったのではないか」と話しました。

愛とよりどころを求める登場人物たちが交錯する物語

ある事故をきっかけに採石場での仕事を辞め、毎日をさまようような精神状態で過ごしていた主人公の達夫。パチンコ屋でライターをあげたことから交流が始まった拓児の属する世界に、足を踏み入れていきます。関わる者たちがすべて、心の傷や追い詰められた生活、行き場のない感情を抱える中、その交流が、決して単純に希望と表現できるものではないが確かに輝く風景を、作り上げていきます。

▼写真:函館市本町の繁華街、北斗市東浜の海(製作者提供)

▼写真:函館市松風町の『津軽屋食堂』、ほか(製作者提供)

▼写真:北斗市東浜の海・砂浜(製作者提供)

主人公に綾野剛さん、ヒロインに池脇千鶴さん

旬の俳優・綾野剛さんが演じた主人公の達夫。自分自身から逃げるようにさまよう孤独な男は、ぶっきらぼうながら人間くさい優しさで物語全体を満たします。生活面でも精神面でも追い詰められながら、毎日を淡々と生き抜き、達夫に愛されるヒロイン・千夏を演じるのは、池脇千鶴さん。千夏の弟で、前科者であり、常に危なっかしさを感じさせながら、そのどこまでも無垢な存在で不思議な魅力を放つ拓児を、若手俳優・菅田将暉さんが演じます。

函館の街との交流

▼写真:記者会見で作品や函館への思いを語る綾野さん(函館市芸術ホール)

3月19日、函館を訪れた綾野さんと呉監督は、作品や函館に対する思いを語ってくださいました。雪の残る函館の景色を見た綾野さんは、「たくさんの市民の方々がものすごく協力的に映画作りに参加してくれました。函館という街が、この作品を作る上で”共犯者”になってくれたことが、この作品を成功に導きました。今回は凱旋という気持ちで訪れ、撮影時とはまた違った函館の風景が見られて、少し高揚しました」と話しました。

夏祭り会場という設定で行われた山上大神宮(函館市船見町)での撮影には、300人近い市民エキストラが参加。3週間の撮影の間は、函館弁を耳になじませて「カバーする」という形に持っていくために、繁華街で同年代の男性たちに声をかけて一緒にお酒を飲んだことも。函館自由市場(函館市新川町)が好きで、ふらっと訪れては、自分で選んだ魚介をのせた海鮮丼を味わったそうです。好きになってことあるごとに使っていた函館の言葉は「やめれ(やめろ)」。撮影を通して、全く異なる職業の友人もできたといい、函館は「大切な人に会いに行く街」になったそうです。

「生っぽい街」函館

▼写真:右から、シネマアイリス代表・菅原さん、綾野さん、呉監督(函館市芸術ホール)

綾野さんは函館について「生っぽい街」と表現。「風が入る港町という特性もあるのか、新しいものを受け入れる態勢がある。東京が、ビルそのものが意識を持っていて人がいなくなっても稼働し続けるような街であるのに対し、函館は、人と街が密接な環境で共存している。人の多く集まる場は生き生きとしているが、人気のない所は、はかなく退廃しているような雰囲気があり、その差に生っぽさを感じました」。

一方、「函館で映画を撮ったという意識は、正直なかった」という呉監督。「函館の看板を映したわけでもなく、有名な坂道を撮ったわけでもない。しかし観てくれた人たちが恐らく、これはどこなんだと気になる街になっているのではないか。場所によってアジアやヨーロッパなど多様な雰囲気を感じさせる、日本というカテゴリーには収まりきらない函館を、そこに住んでいる人たちに再発見してもらえれば嬉しいです」と話しました。

監督と「達夫」が語る『そこのみにて光輝く』

▼写真:舞台挨拶で会場の人々に語りかける綾野さん(函館市芸術ホール)


監督として今回が3本目の作品という呉監督。3作品とも家族をテーマにしている中、特に今回は「とにかく愛を描きたかった。男女のラブストーリーの背景にある家族や人間関係を深く描くことが、この企画ならできると思った」そうです。

完成披露試写会では、女性の姿が圧倒的に多く見られましたが、男女問わず人間を愛することができなくなった主人公が、生きることや生活することへの「覚悟」を抱き、自分なりの家族の形をつかんでいこうとする硬派な物語。「自分を愛せなくなった人たちを抱きしめたい」という気持ちを日ごろから持つ中で、達夫を演じたという綾野さん。「武骨で不器用だけどまっすぐというような函館男児を意識して演じていた。函館の方々の感想も、怖いですが、聞いてみたいですね」。故佐藤泰志さんに対しては「僕が自分自身を捧げた作品。たくさんの人たちが、佐藤さんの作品を違った形でみていますよと伝えたい」。

映画『そこのみにて光輝く』

4月19日(土) テアトル新宿・ヒューマントラストシネマ有楽町 他にて全国ロードショー。
4月12日(土)より、函館シネマアイリスで先行ロードショー
公式サイト:http://hikarikagayaku.jp/
出演:綾野剛、池脇千鶴、菅田将暉、高橋和也、火野正平、伊佐山ひろ子、田村泰二郎ほか
監督:呉美保
原作佐藤泰志『そこのみにて光輝く』(河出書房新社)

(※一部製作者写真提供)