不二家ペコちゃんは八雲町出身!? 八雲に伝わる「ペコちゃん伝説」


【八雲町】 オーバーオール姿に、おさげにした髪にはリボン。横目で舌をペロッと出した笑顔の「不二家のペコちゃん」。愛嬌たっぷりの洋菓子店のキャラクターは、誰もが知る人気者。そのペコちゃんにまつわる伝説が、八雲町にあるのをご存知でしょうか?

ペコちゃんは八雲の「あすなろ牧場」出身!?

「ペコちゃんは、かつて八雲町にあった”あすなろ牧場”の1人娘がモデルになっている」。こんな「ペコちゃん伝説」が、八雲物産観光協会が出している同町のパンフレットに紹介されています。同観光協会によると、2000年代半ばに全国区の雑誌で取り上げられたことがありますが、それ以前から地元で聞かれている話だそう。しかし現在、「あすなろ牧場」という名の牧場は、存在しません。八雲町としても調査をした経緯はあるものの、残念ながらはっきりとした事実は確認できていないそうです。

「ペコちゃん伝説」が生まれた背景

しかし、なぜ、このような話が誕生したのでしょうか? 八雲町は、「北海道酪農発祥の地」と言われています。寒さから米作が適さず、明治時代から馬鈴薯を中心に農業が行われてきた八雲の地。大正時代に入ってからは、個別に酪農を営む農家が存在していましたが、もっとシステマティックに酪農業を推進していこうと、全農家に牛を行き渡らせるために、1920(大正9)年に「畜牛組合」が作られました。こうした流れの中、八雲の酪農業が発展していき、各地の農業関係者が視察に訪れたそうです。

▼八雲町の牧場と噴火湾

不二家の「ペコちゃん」が誕生したのは、1950年。八雲町によると、八雲の酪農家はペコちゃん誕生以前から、デンマークなど海外にも視察や勉強をしにいっており、その中には女性も多くいました。西洋農法をいち早く取り入れた八雲の牧場に、当時としてはインパクトのあったオーバーオールを着た少女がいたとの話もあり、乳製品の産地の視察として同町を訪れた不二家の社員が、牧場で見かけた1人の女の子に、同社が温めていたキャラクターのイメージを見出したという話になっているそうです。

地元の反応は!?

▼写真:不二家八雲店のペコちゃん。イースターフェア実施期間の「うさぎペコちゃん」


八雲町東雲町にある「不二家 八雲店」を訪れてみました。若いスタッフさんは2人とも、ペコちゃん伝説については「知りませんでした!」。フランチャイズ店を経営して2014年6月で4年になるというオーナーは「前のオーナーに聞いたことがあり、本社に聞いてみたこともありますが、そうなんですか?という反応でした。実際のところ、どうなんでしょうね!?」。

JA新はこだて八雲基幹支店でも「知りませんでした」とのこと。そこで、100年近く続く酪農家であり、93歳の現在も健在でいらっしゃる同町の加藤孝光さんを訪ねてみました。「ペコちゃんについては、知らなかったなあ」と加藤さん。しかし「あすなろ牧場っていう名前は聞いたことがあるねえ。どこでだれが営んでいた牧場なのかまでは、分からないんだけどねえ」。

道産生乳から作られている『ミルキー』

さて、不二家広報室に問い合わせたところ、「ペコちゃんは、(1951年に発売されたキャンディーの)ミルキーのキャラクターとして、発売以前から温められていましたが、店頭に置く人形としてミルキーの発売に先駆けて誕生しました(1950年)。ペコちゃんの名前は子牛をさす”べこ”を西洋風にアレンジしたもので、デザインは様々なものを参考にしたようですが、特に八雲町と関連するいきさつがあるわけではないようです」とのこと。

しかし、「定番タイプの白いミルキーに使われているれん乳は、北海道産のミルクから作られています」。残念ながら”伝説”の根拠となる事実の確認はできなかったものの、発売から60年を超えて愛され続ける不二家のお菓子と、北海道酪農発祥の地とされる八雲町という、2つの歴史が結びついてこんな伝説が生まれたことには、うなずける気持ちがわいてきます。

▼不二家ミルキー袋、ペコちゃん人形

発展するペコちゃん伝説

ところで、ペコちゃん伝説には、ペコちゃんにとどまらない発展が……。ペコちゃんのボーイフレンドであるキャラクター「ポコちゃん」も、ペコちゃんのモデルとなった少女の牧場の牧童だった男の子ではないかという話です。ペコちゃん伝説の根拠の事実が確認できない以上、ポコちゃん伝説についても、もちろん、確認する術はありません。しかし、「ペコちゃんとポコちゃんのモデルになった女の子と男の子は、やがて結婚したらしい」「結婚してどこかほかの地で農業を続けているのではないか」など、伝説のささやかな発展も噂されるとか。

たかが伝説、されど伝説。日本で唯一、日本海と太平洋に囲まれ、海洋性気候を生かしていち早く西洋式酪農法を導入したという八雲町。八雲観光物産協会によると、様々な事情から離農する方々も少なくないそうですが、全国区の人気者として歴史の長いペコちゃんとのファンタスティックな伝説をかたわらに、八雲の酪農業が今後も元気であってほしいと感じました。

※一部写真提供:不二家