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知床世界自然遺産登録のあゆみ

編集部
Written by 編集部

 知床が世界自然遺産に登録されるまでのいきさつをまとめました。

2003年5月26日:知床を世界自然遺産候補として選定
2004年1月30日:ユネスコ世界本部世界遺産センターに推薦書提出
2004年7月20日:審査機関である国際自然保護連合(IUCN)デビッド・シェパード保護地域事業部長の現地調査・審査
2004年11月5日:IUCNからの書簡つまり評価報告書作成のための検討課題に回答
2005年2月15日:IUCN、日本政府に対し登録海洋域拡大と海域管理計画強化を求めて期限付きで回答を要求
2005年3月31日:IUCNへ海洋保全強化への対策について回答(登録海洋域拡大等)
2005年5月31日:IUCN、世界自然遺産への登録が適当と評価書をユネスコに提出
2005年7月14日:南アフリカ・ダーバンで世界遺産委員会総会・審査・決定
2005年7月17日:正式決定・世界遺産リストへ登録
2005年12月22日:環境省は要請されていた知床国立公園面積拡張(沿岸3km面積71100ha)を行い、世界遺産センターに報告
2008年1月21日:課題への対応策がすべて出揃う
2008年2月19日~22日:IUCN調査団及びユネスコ世界遺産センターが登録後初公式訪問・調査、自主規制に補完・ルシャ川砂防ダム撤去を求める
2008年7月10日 カナダで開催されたユネスコ世界遺産委員会で知床調査報告書が了承され、世界自然遺産登録は継続となった。

登録まで

(写真)岩尾別川のダム
知床世界自然遺産登録のあゆみ

岩尾別川

 2004年を中心に、IUCNから厳しい注文が多く、一時期は本当に登録されるんだろうか、無理なんじゃないかと、疑惑も出てきました。たとえば岩尾別川支流のダムに関して、サケ遡上に悪影響となっているため、ダム撤去や魚道設置など改善点を挙げて、厳しい評価をしました。

 また予想外の2度目の書簡が送られてきて、漁業の点でも問題点を指摘。海洋保全強化・登録海洋域拡大を求めました。ということで、世界自然遺産の海洋域を増やし、沿岸から1kmとしていたのを3km以内に変更することになりました。しかし、その決定までには、地元漁業者たちとの衝突もありました。

 そんなどたばた劇が続きましたが、2005年5月末には、IUCNが前向きな評価をしてユネスコに評価書を提出して、ほっと一息。「適当」と評価されたらほぼ確実に正式登録されるからです。

(写真)知床五湖と知床連山
知床世界自然遺産登録のあゆみ

 今回の知床世界自然遺産への登録の背景には、地元漁業者の自主規制があります。IUCNのフランソワ・シマール海洋事業部調整官は、これは世界に誇るべきこととして高い評価をしています。さらにはIUCNは、海が関わる世界自然遺産登録増加を目指しているということもあって、前向きな評価になったとされています。

 知床世界自然遺産の将来性として、IUCNは「北方領土と知床」という組み合わせで、国境をまたいだ世界自然遺産の可能性も示唆しています。距離が近いだけあって自然や生態系は酷似しているということですね。

課題と対応策

(写真)知床岬
知床世界自然遺産登録のあゆみ

 さて、登録時の2005年7月、登録の"条件"として5つほどの条件が提示されていました。1つは前述の通り、指定海域の拡張ですが、ほかにもこんなものがありました。

1.指定海域を1kmから3kmへ拡張するにあたり法的確定、及び地図等を世界遺産センターへ送付すること
 =登録後12月22日に環境省告示140号で拡張され地図を送付された
2.登録後2年以内に海域管理計画策定状況評価のため調査団を招聘すること
3.海洋希少生物保護のため2008年までに海域管理計画を策定すること
4.人工ダムによるサケへの影響があるためサケ科魚類管理計画を策定すること
5.観光客管理等策定すること

 こうした"宿題"を一つ一つクリアしていく必要が生じました。1、2はいいとして、3番、これが大きな問題となりました。これは主に絶滅危惧種トドの保護に注目しているもの。トドのえさとなっているスケソウダラも関連します。しかしスケソウダラを漁獲する漁業者との関係もあるため、計画策定は難航しました。最終的に、自主規制を行っている地元漁協をいわば"信頼・一任"して、新たな規制を行わないということで双方一致、初の国内国立公園管理計画策定となる「海域管理計画」を策定しました。

 また、トドやスケソウダラ、サケ、オオワシなどの生息数を定期的に調査・把握することにしています。ただし、北方領土が近く、ロシア側がトロール船で乱獲をしている事実もあり、日本だけで解決できる問題ではないようです。このため、北方領土とウルップ島まで遺産区域を拡大することをロシア側に働きかけるために、2008年3月にNPO法人日露平和公園協会が設立されています。

 4番に関連することとして、サケ河川遡上を妨害する人工ダムを改良することについては、14河川123基の人工ダム等について、うち19基にサケが遡上可能なように改善工事を完了済み、12基は計画済みとなっています(2008年1月現在)。5河川でサケ遡上が回復していますが、9河川はサケのいない河川となります。

 増加するエゾシカの管理策も急務でした。エゾシカの急増に伴い、登録地域の貴重な植生が食い荒らされるなど問題を抱えるようになってきていました。それで2007年12月10日以降、環境省釧路自然環境事務所主導で、国内世界自然遺産では初となる計画的駆除を実施。計画では知床岬の約600頭を3年かけて半分の生息数に減らすといいます。まずは2008年5月までエゾシカ(メス)150頭を駆除。

 5番に関連して、レジャーや観光、漁業などで立ち入り規制を求めるということがありました。まずは半島先端部の「利用の心得」を2008年1月までに策定しました。これには動力船上陸禁止、外来種を持ち込まないため靴底を洗うこと、エゾシカなどの野生生物にえさを与えない、ヒグマ対策、植生に影響を与える地域での野営禁止など自然保護の心構え、半島先端部での登山客が守るべきルールが含まれます。

 さらに半島中央部の「利用の心得」素案も完成し、ごみを捨てない、歩道や登山道から逸脱しないなど観光圏での守るべき10のルールがあげられています。世界遺産登録効果については、登録当時には渋滞・混雑が当たり前だった知床界隈は、登録2年目の2007年に観光客が激減している現状が報道されました。

ロシアと世界遺産区域拡張要求

 先述のように、知床が世界遺産登録されたとはいえ、同じようなオホーツク海の流氷による自然・生態系の特徴は北方四島およびウルップ島でも見られます。2000年ごろ、ロシアも北方四島からウルップ島の自然保護区を世界自然遺産に登録しようとしていたことがありましたが、領土問題から実現しませんでした。

 とはいえ、北方四島では旧ソ連崩壊後インフラ整備・密猟などが行われ、ロシアによる自然環境保護が後れを取っています。また、スケソウダラ資源回復を求めてきたIUCNですから、これは同じ海を共有するロシア側にも努力が求められます。世界的に禁止の動きがあるトロール船によるスケソウダラ漁業がいまだに行われているからです。

 以上のことから、ウルップ島・北方四島も含めた世界自然遺産区域拡張を求める声があります。知床と北方四島・ウルップ島を含めた世界自然遺産区域拡張を求める理由と、北方四島での生態系の豊さについては、大泰司紀之・本間浩昭著「知床・北方四島~流氷がはぐくむ自然遺産」(岩波新書)に詳しい。

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