『赤毛のアン』の世界。芦別市「カナディアンワールド公園」とは

小説『赤毛のアン』の世界を再現した「カナディアンワールド公園」(芦別市)が老朽化のため、2019年10月20日の営業をもって閉園しました。バブル末期の1990年にテーマパーク「カナディアンワールド」としてオープンし、休園期間を経て1999年から無料の市営公園として一般開放。平成の一時代を歩んできた施設は、誕生から29年、市営公園として20年の歴史に幕を下ろすことになります。(2020年度以降については後述。)

そこで、市営「カナディアンワールド公園」および前身のテーマパーク「カナディアンワールド」の歴史を振り返り、閑散としてしまった閉園直前のカナディアンワールド公園の様子をリポートします。

バブル期を象徴するテーマパーク誕生の歴史

芦別市では昭和50年代、石炭産業や農林業が落ち込んだことによる新しい観光開発を目指して、「憩いの村構想」を立ち上げました。その目玉となるカナディアンワールドの具体的な計画を請け負ったのは株式会社東急エージェンシー。1987年10月提出の計画書で、カナダの小説家ルーシー・モード・モンゴメリ作の小説『赤毛のアン』の舞台となったカナダ プリンスエドワード島の風景の再現の建設が提案されました。

なぜ突然、芦別とは縁もゆかりもないカナダ、『赤毛のアン』が出てきたのでしょうか。新芦別市史第3巻にはこう記されています。「発案者であった㈱東急エージェンシー役員の木村王一が、同年9月に北海道の気候風土に似た北方圏のカナダ・プリンスエドワード島などを視察し、同夫人が大の『赤毛のアン』のファンであったことも影響して、こうした提案に至ったという」(p158「カナディアンワールド問題」より引用)。

これを機に事業主体となる第三セクター「株式会社星の降る里芦別」が誕生することになります。1988年3月11日、国の産業整備基金から全国第1号の出資を得て設立されました。

建設場所は新旭炭鉱黄金露天坑跡地のすり鉢状の地形で、当時の東京ディズニーランドとほぼ同じ48ヘクタール。平成に入ったばかりの1989年6月1日、建設に先駆けて市民1650人が参加してのラベンダー植栽が行われました。その後、8月から翌1990年7月までの1年間で約45億円をかけて建設されました。

▼針広混交樹林に囲まれた盆地の牧歌的な風景が来園者を魅了した

こうして1990年7月28日に式典を開いて、翌日29日にオープン。19世紀のカナダの風景・街並みと日本一のラベンダー畑(18ヘクタール)を核とした『赤毛のアン』のテーマパーク「カナディアンワールド」の誕生です。日本でも珍しいテーマパークとして全国で紹介されたこともあり、オープン初日には約13,000人が訪れ、前途洋々かと思われました。

▼入園料(パスポート料金)は大人2,000円(冬季は半額)と強気の料金設定だった

入場者数は初年度(7月スタート)が約20万人、翌1991年度に約27万人を数えましたが、ここがピーク。翌1992年度は約22万人と早くも前年度を下回り、それ以来減少の一途をたどっていくことになります。

運営会社は、大型レストラン「ハートランド」開店やミニ列車「カナディアンロッキー号」導入、リス飼育舎建設、「アンティーク・オルゴール館」開設、遊覧馬車道新設、イベントの実施、店舗施設のテナント化、年間フリーパスポートやリピーター料金の設定などテコ入れを図りましたが、1997年度には約9万人にとどまり、同年11月1日でやむなく休園、また、運営会社も事実上休眠となりました(後に会社清算。施設の備品を売却するオークションを開催)。

バブル経済崩壊以降の不況長期化、国民の観光志向の変化、テーマパーク乱立による競争、立地条件の悪さなど幾つもの要因によりテーマパーク営業を断念した同施設はその後、市営化することになります。

こうして、ほぼ2年ぶりとなる1999年7月4日に「カナディアンワールド公園」として再出発。入場無料で市民に開放されることになりました。オブジェ「平和の泉」設置や「石岡剛の世界美術館」が開館したのは、市営化した後の話です。

市営化後の初年度は約5万人を記録、2001~2002年度に7万人を超えるまでに盛り返しましたが、それ以降は年々減少、2012年度には3万人を割り込んでしまいました。

カナディアンワールドでは、1994年8月に「サマークリスマス」というイベントをはじめました。これは後に「キャンドルアート」となったイベントの原型で、芦別三大イベントの一つに数えられていましたが、2013年8月開催の第20回を最後に終焉しました。その後もテナント主催のコンサートなどイベントを開催したり、観光協会主催のボランディアデ―に市民が参加し、園内の景観整備が行われたりして盛り上げに努めてきました。

カナディアンワールドは、映画やドラマのロケ地としても活用されました。最初の撮影作品はNHKドラマ『チロルの挽歌』でこれを皮切りに国内外の映画・ドラマで使われていることがわかります。このほか、バラエティー番組やCMの撮影に使われました。

  • 1991年夏~1992年冬:NHKドラマ『チロルの挽歌』(高倉健・大原麗子主演、1992年4月放送。チロリアンワールドとして登場)
  • 1994年10月:テレビ朝日『さすらい刑事旅情編』シリーズⅦ第5話(同年11月放送)
  • 1999年7月:映画『GTO』(反町隆史主演、同年12月公開。カナダ村として登場)
  • 2009年10月:中国映画『肩の上の蝶』(2011年公開)
  • 2013年6月:映画『野のなななのか』(2014年5月公開)

「カナディアンワールド」には何があったのか

さて、テーマパーク「カナディアンワールド」にはどんな施設があったのでしょうか。

オープン時、園内は6つのゾーンに大きく分けられ、ゲートは南と北に2カ所、40もの施設が存在しました。下記はオープン時の施設一覧ですが、その後の主な経緯を併記しています。閉園時には主に土日祝日に限って営業しているテナントが多かったようです。

(1)ケンジントンゾーン(南側入出国口施設群)

  • 入園ゲート(発券場)(※取り壊し)
  • ケンジントン駅(オリエンテーションハウス、メインゲート)→トイレ
  • メイプル&リンゴー(総合ギフトショップ)→「石岡剛の世界美術館」(絵画や小物の展示販売)
  • サロンケンジントン(50席のティーサロン)→環境活動→「風の音」(軽食喫茶)
  • クロックタワーセントジョン(ここのために特別デザインされた展望台のある時計塔(高さ15m)) 

▼クロックタワーセントジョン

▼サロンケンジントン

▼メープル&リンゴーとケンジントン駅

▼園内を巡るベルトレインの先頭車両

(2)コルツゾーン

  • クリスティアンヌ(フランスアルザス地方の家具、民芸品販売)→「丘のギャラリー」(バードカービング、パッチワーク、押し花など)
  • ウッドマン(カナダのアウトドアショップ)→ギャラリー(陶芸品等の展示販売)
  • ティーピー(カナダ先住民の工芸品販売)→「手作りマミー」(布・木工小物の展示販売)
  • カナディアンパーク(滑り台などの遊具)(※閉鎖)
  • カナディアン乗馬クラブ(※閉鎖)

▼コルツゾーンの3つの建物群

(3)クラフトビレッジゾーン(カナダの伝統工芸)

  • フロンティア(ステンドグラス、木工芸品や陶器の販売)→写真館
  • ハーブ生活館(ハーブ染めなどの工房と物販)→「ハンドメイド&カフェERBA」(喫茶、ハンドメイド展示販売)
  • キルト(パッチワーク工房と物販)→「KAENA」(雑貨ギャラリー販売)→「ギャラリー芦」(書籍・絵画・小物販売)
  • ラベンダーハウス「パルフェ」(ハーブ製造販売、ハーブカフェ)→「カナディアンワールド公園ハーモニー」(手芸品展示販売)→「パルフェ(チャーリーハウス)」(骨董品販売)
  • ハーブガーデン(約100種類のハーブを植栽)(※未整備)

▼ラベンダーハウス「パルフェ」

(4)アヴォンリー(アンの村)ゾーン

  • グリーンゲイブルズ(アンの家:博物館、モンゴメリの作品展示)
  • ポストオフィス(簡易郵便局)→「白ひげ郵便局」(商品販売)
  • リンド夫人の家(喫茶店)→パッチワーク・コサージュなどの展示販売
  • オーチャードスロープ(ダイアナの家、P・E・Iの商品とモンゴメリ書籍販売)→「おし花ギャラリーはなつみ」(押し花作品展示販売・体験)
  • オーウェルスクール(アンの通った学校、アンの関連書籍展示)→モデル研修・撮影
  • アンの教会(結婚式場)→ブライダル写真・日曜学校
  • テラノーヴァ(展望レストラン)→喫茶、アンティークオルゴール演奏
  • 小道「恋人の小径」(※閉鎖)
  • お化けの森

▼ポストオフィス

▼リンド夫人の家

▼グリーンゲイブルズ(アンの家)

▼アンの部屋

▼裁縫部屋

▼客間

▼キッチン

▼マシューの部屋

▼ダイニングルーム

▼オーチャードスロープでは29年前に作られた人形たちが展示されている

▼小高い丘の上、周遊路沿いにはアンの教会。近くには駐車場も設置

(5)テラスデュフランゾーン(カナダケベック州セント・ローレンス河岸にある遊歩道テラスデュフランを模したエリア)

  • 500席の大型レストラン「ハートランド」(1991年4月オープン)(※閉鎖)
  • キャラクターショップ「アン」(荒井良二デザインのオリジナルグッズ販売)→「アンショップ」(赤毛のアングッズ販売)
  • スィーピー(バラエティショップ)→「雅やんのプチ・フォトギャラリー」(写真関連品の販売)→手芸品・小物木工品など展示販売
  • カフェ・ド・デュフラン(100席のレストラン)→40席のオルゴール喫茶、展示販売
  • ミックマック(80席のレストラン)→「風の音」(軽食喫茶)→軽食
  • チーズ(アンの写真館)
  • ファーマーズ駅・ピクニカ(カナダ風の食料品販売など)のちに全長1,060mの線路を約15分で走る70人乗りミニSL「カナディアンロッキー」(1992年6月運転開始)の乗降場になった(市営化後は1回300円・未就学児無料、土日祝・お盆・GWの11時~14時まで30分おきに運行)(ピクニカは閉鎖)
  • 88席を備えた野外ステージ(※使用不可)
  • 輝く湖水(レイクオブシャイニングウォーター)
  • インフォメーションセンター(案内所・カナダPR・園内模型展示)
  • 救護センター(身障者用トイレ・ベビーベッド)
  • 迷子センター

▼インフォメーションセンター

▼ファーマーズ駅と鉄路・車両

▼西側から見る街並み

(6)ブライトリバーゾーン(北側入出国口施設群)

  • ブライトリバー駅(北側ゲート・発券場)(※閉鎖)
  • カーリートレイン(総合ギフトショップ、カナダ横断鉄道模型)→ライブハウス(年4回全道インディーズフェス開催会場)
  • ピラミッドホール(多目的イベントホール)(※閉鎖)
  • サンハウス(温室、花販売)(※閉鎖)→(復帰)「夢の樹」(花の販売)

▼ピラミッドホール

▼カーリートレイン

▼ブライトリバー駅

▼サンハウス

このほか、管理事務所、日本最大面積を謳うラベンダー園のほか、園内バスの乗降場ベルステーションが5カ所あって500円で1日乗り放題でしたが、後に運行を停止しました。

時代が変わっても人気のゾーンといえば、池と町並みの風景が美しい「テラスデュフランゾーン」と、アンの家「グリーンゲイブルズ」がある「アヴォンリーゾーン」の2つです。「アヴォンリーゾーン」のうちアンの家、ポストオフィス、リンド婦人の家を「アンの記念館」と位置づけていて市が直接管理。特にアンの家を目当てに多くの人が訪れています。

▼グリーンゲイブルズへの案内看板は設置されている

現在、北側の「ブライトリバーゾーン」はほとんどの施設が老朽化のため閉鎖、廃墟と化しています。「コルツゾーン」「クラフトビレッジゾーン」「ケンジントンゾーン」はそのほとんどがテナントエリアになっており、前述の2エリアから少し離れているため、訪れる人は多くありません。

南側の入場ゲート付近に広大な駐車場がありますが、園内は広いため、反時計回りの一方通行路を利用して車で園内を巡ることができます。テラスデュフラン近くに約20台の駐車場があり、「テラスデュフランゾーン」と「アヴォンリーゾーン」の2エリアの散策の拠点となっています。

【動画】映像で見るカナディアンワールド公園

閉園決定後に一転、テナント団体が運営継続へ

公園そのものは芦別振興公社が市からの委託で管理してきましたが、2019年4月に解散したため、2019年度は芦別観光協会が管理。2019年10月20日の営業をもって閉園することとしていました。

一方、多数のテナントで構成する任意団体のテナント会は、2013年にカナディアンワールド公園振興会に改称。閉園方針決定を受けて、テナント団体は市に対して公園施設などを無償貸出するよう要請。2020年度以降も土日祝日に限って公園を運営することになりました。いったん閉園は免れる予定ですが、施設の老朽化も進んでおり、いつまで営業継続できるか注目が集まります。

参考文献:『新芦別市史第三巻』『星の降る里芦別 観光ガイドブック』ほか