頂上には吸い込まれそうな火口が!日本百名山「雌阿寒岳」に登ってきた

北海道の中に、夫婦の山として知られる火山があります。様々なアイヌの伝説がある「雄阿寒岳(1,371m)」と「雌阿寒岳(1,499m)」です。(冒頭写真:オンネトー湖畔より撮影。左が雌阿寒岳、右は阿寒富士)

アイヌ語では雄阿寒岳は「ピンネシリ(男の山)」、雌阿寒岳は「マチネシリ(女の山)」と呼ばれ、それぞれの山の形を見事に形容する呼び名かと思います。しかし女性的な山を連想させる雌阿寒岳には、アイヌの伝説で、夫にあたる雄阿寒岳の浮気による夫婦喧嘩が元で怒っている等の話が伝えられています。

雌阿寒岳の南にある「阿寒富士(1,476m)」を含めたこれらの山をまとめて阿寒岳とも呼ばれていますが、一般的に阿寒岳というと雌阿寒岳のことを指し、日本百名山にも選ばれています。

雌阿寒岳は長径24km、短径13kmにわたる8つの火山からなる成層火山群で、その中央には中マチネシリ火口、最高峰である雌阿寒岳山頂にはポンマチネシリ火口があり、現在も活発に活動している火山です。

雌阿寒岳の噴火の歴史

1954年(昭和29年)~1961年(昭和36年)断続的な小噴火。
1964年(昭和39年)~1966年(昭和41年)断続的な小噴火。
1988年(昭和63年)小噴火。
1996年(平成8年)小噴火。
2006年(平成18年)小噴火。

1900年代初頭の入植以前の活動は知られておらず、入植以降の活動では大規模な噴火はありません。しかし水蒸気爆発による小噴火とはいえ、噴火を繰り返す活発な火山です。

2017年に火山周辺警報が噴火警戒レベル2(火口周辺規制)から、噴火警戒レベル1(活火山であることに留意)に引き下げられ、雌阿寒岳頂上へ登ることができるようになりました。火山活動が落ち着いている今、どのような姿をしているのか実際に行ってみることにしました。

雌阿寒岳へのアクセス

雌阿寒岳の登山道は幾つかありますが、野中温泉(雌阿寒温泉)からの登山口と、オンネトー湖畔からの登山口がよく使われているようです。国道241号線(足寄国道)から、道道664号線へ入り道なりに進むと野中温泉へ着きます。登山口は野中温泉のすぐ近くで、7~8台停められる駐車場もあり、今回はこちらから登ることにします。

▼雌阿寒岳は足寄町(十勝総合振興局)と釧路市(釧路総合振興局)を跨いで聳える

▼雌阿寒岳登山口。奥に登山者名簿入れがあるので、名前を記入し注意事項を確認

標高によってハッキリとした植生の違いを楽しめる

登山口から標高900mほどまではエゾマツ等の樹林帯が続き、階段状になっている木の根や、倒木に密集する苔の緑が綺麗で、原生林を楽しみながら進めます。

1時間ほど登ると線を引いたかのように樹林帯を抜け、一面ハイマツの林に変わり眺望も開けます。ハイマツといっても背丈は様々で、腰ぐらいの高さやトンネルのような場所もあり、童心にかえってワクワクします。ハイマツ帯も1時間ほど進むと岩が目立ってきて、標高1,200mを越えると砂礫へと変わります。

よく見ると道がわかるのですが、頻繁に確認しないと登山道から外れてしまうので、注意が必要です。標高によって植生の違いがハッキリと見ることができる山ですので、飽きることなく登っていけます。

▼芸術的に感じる樹林帯の登山道

▼ハイマツ帯からオンネトーも見えてきた

▼岩にある赤や黄のペイントが道のしるし

火山の音と臭いに包まれる山頂

稜線へ出ると反対側がすぐポンマチネシリ火口の絶壁となっていて、噴煙の凄まじい音が聞こえてきます。火口内下に赤沼が見え、その傍から一直線に空へ向かって噴きあげる噴煙は、登ってきた疲れなど一気に吹き飛ぶ光景です。

崩れやすい地盤と吸い込まれそうに落ち込んでいる火口に身の危険を感じ、緊張するあまり疲れなど忘れてしまうのでしょう。それほどにインパクトある光景です。

▼稜線へ出ると目の前に現れる火口。赤沼と噴煙が見える

山頂まではその稜線を200mほど辿っていくのですが、阿寒湖や周辺の山々の綺麗な景色を楽しみつつも、常に聞こえる噴煙の音に絶えず緊張感があります。山頂へ着くと隣に聳える阿寒富士をはじめ、遠くに阿寒湖、その間に直径1.1kmある外輪山に囲まれる中マチネシリ火口とその中央から上がる噴煙も見え、火山群のとてつもない広さを実感できます。

さらにはポンマチネシリ火口内に青く輝く青沼と、その側から上がる噴煙の凄まじさと風に乗って感じる硫黄臭に山の頂に立ったというより、火山に囲まれているという感覚のほうが強く感じます。

▼雌阿寒岳山頂から。奥に広大な中マチネシリ火口と剣ヶ峰が見える

▼ポンマチネシリ火口。青沼と左には阿寒富士、右には赤沼火口からの噴煙が見える

青沼の側の火口から上がる噴煙は、非常に活発で風向きによっては、まともにこちらへ向かってきます。活動中の火山の上に立っていますので、足元の地盤や火山ガス等に注意しなければなりません。

▼登山中頻繁に見かけた注意看板。書かれていることを意識しましょう

山頂で景色を眺めながら、アイヌの人々が女性らしい山の姿からマチネシリ(女の山)との名前をつけたセンスに改めて感服しました。女性が怒ると恐いということも含んでいたのですね。(笑)

頂上で活動する火山の姿を見た後に山を降りる際、同じルートなのですが登ってくる時とは違い、砂礫の石一つ一つに意思があるかのように思えて、生きている山というのを感じました。山頂まで3時間ほどで登ることができるので、初心者のステップアップによいとの話も聞きます。チャンスがあれば是非登ってみてください。

▼中マチネシリ火口。奥には阿寒湖と雄阿寒岳が見える

【動画】動画で見る雌阿寒岳