札幌市から約190km離れた士別市朝日町。その街に、6年以上もの間眠りについていた廃病院がありました。眠りから覚めたのは2008年。現在その病院は、空間と人、時間と人、そして人と人とを繋ぐ「旧佐藤医院」として、訪れる人に心の健康を与えてくれています。
カフェとも宿ともアトリエとも違う、「旧佐藤医院」というカテゴリーのこの場所は、一体どんなところなのでしょうか。
まるで映画のセットのような外観
▼冬の旧佐藤医院
朝日町の街中を歩いていると、白い壁に赤い屋根、どっしりと構えた和洋折衷のレトロな建物が目に入ってきます。入口に書かれているのは、佐藤医院、の文字。ここは、1930年(昭和5年)から70年もの間、朝日町の地域医療を支えた病院です。
地元のランドマークを地元民の手で残す
▼当時の置物がそのまま残った室内
2000年に閉院したはずのこの病院が、今でも綺麗なまま残っているのには理由があります。なんとここは現在、地域の方や旅の途中の方が立ち寄って、思い思いの時間を過ごせる「公共のたまり場」として存在し続けているのです。
老朽化が進んでいたこの歴史的建造物をこの街に残したいという想いで活動を始めたのが「あさひ 郷土の資源を生かす会」という任意団体。2008年から、清掃や修繕が行われ、2011年に一般開放されました。
扉を開ける人によって変化する場所
▼端々に残された当時の建築様式
一体ここではなにができるのか。その答えは、無数にあって、ひとつしかありません。ここはあなた次第でどんな使い方も出来るし、どんな過ごし方もできます。お気に入りの椅子に身体を預けて本を片手に珈琲飲めば、あなただけの喫茶店になり、紙と鉛筆を持ち込んで朝から晩まで机に向かえば、執筆活動に最適なあなただけの書斎になる。さらに、カメラを持ち込めばスタジオにもなるし、企画を持ち込めばイベントスペースに。ここは、訪れるあなたの目的と感性で、あなたの居場所になるところなのです。
▼いたるところに置かれている本は、自由に閲覧可能
誰もが居てもいい場所
▼夏の縁側
大切なのは、「あなただけの居場所」ではなく、みんなにとっての「あなたの居場所」であること。「あなただけの居場所」であるのは自分の家や部屋で十分なはずです。ですがここは、自分の時間を過ごしながらも、ふと息抜きをしたい時には隣を見れば誰かがそこに居て、何しているのかな?と興味を示したり、お喋りが始まったりする、人と人との出逢いの場でもあります。
自由に発想して形にできる場所
▼アーティストさんたちの制作合宿をやりたいと語る塚田さん
今回お話を伺ったのは、HP作成や広報としての役割を担っている塚田和嗣(つかだ かずし)さん。
塚田さんはこの朝日の町を「物語が生まれる場所」にしたいと話してくれました。塚田さん自身、執筆活動をしていることから、文芸のまちとしての町づくりを目指しているそうです。そのため、ここ旧佐藤病院を市民の方や道民の方はもちろん、道内外のアーティストさんたちにもぜひ使って頂きたいという想いがあります。
昭和モダンの雰囲気が漂い、タイムスリップしたかのようなこの建物に籠って活動してみたり、同じ趣味の人が集いサークル感覚で気軽に制作活動してみたり、制作活動はしたことがないけど興味があるという人が新たに挑戦してみたりできる場なのです。
季節や天気によって変わりゆく景色
▼茶室から見る、秋の日本庭園
更にここには和洋折衷の建物というだけあり、洋風な外観からは一変して、裏にはシャクナゲやモミジが美しい「松韻庵」と呼ばれる日本庭園もあります。縁側から眺めるその景色は、まさに物語が生まれそうな心癒される空間なのです。
使う人みんなで、育てていく場所
▼持ち寄った作品を展示販売するセルフマーケット方式
開館日には、この建物と日本庭園の見学や、常設されている雑貨ショップでお買い物ができます。また、イベントなどを開催したり、サークルなどで定期的に利用したりすることもできます。さらに、年会費3000円で館内のスペースを自由にカスタマイズしたりもできるそうです。
塚田さんは、かつてレントゲン室だった部屋をご自身の書斎へと変身させたそうです。このように利用方法はたくさんあるので、気になった方は是非一度、足を運んでみてはいかがでしょうか。まさにここは、あなた次第で無限の可能性が秘められた場所なのです。
▼旧病院ならではのレトロなグッズも販売
落ち着いていて、日常とは少し離れた特別な空間。そんな病院ならではの空気感も残りつつ、心まで健康になれる場所。あなたならではの旧佐藤医院を、是非体験しにいってみてください。