店主の人生は波乱万丈な映画のよう!岩見沢市「珈琲舎 人生の途中」

まずは場所の紹介から。岩見沢駅から中央道を14km弱、約20分ほど走り、道道30号線にぶつかったところで右折します。800mほど走ると今度は国道38号線にぶつかるので、左折してさらに6km弱。「Cafe 人生の途中」と書かれた看板が見えてきます。

「なぁんだ、カフェの紹介か」と思うことなかれ。オープンに至るまでの店主の半生は、なかなかの紆余曲折ぶり。まるで波瀾万丈な映画のようで、それを知ると「人生の途中」(たびのとちゅう)という店名に、思わず膝を打つこと間違いなしです。

バンドマン、公務員、飲食店経営……

▼国道38号線沿いにある看板が目印

店主の藤井海(ふじいひろし)さんは、もともと岩見沢出身。高校時代からサッカーの才能に秀でていた藤井さんは、卒業後、サッカーをやるために埼玉県所沢市に移住します。ところが膝を故障し、挫折。北海道は岩見沢に戻ってきた直後は、バンドのドラマーとして小遣い稼ぎをする毎日でした。

そんな藤井さんを叱咤激励してくれたのが、地元の恩師です。恩師の「お前は一体、何をしているんだ」という言葉にハッとなり、新十津川町で公務員として働きはじめました。

コーヒーに魅せられたのは、そんな公務員時代のこと。1977(昭和52)年にコーヒー修業を開始し、1986(昭和61)年には念願の店を滝川に出すまでになったのです。

▼手づくり感あふれる「人生の途中」現在の店内

そこからは順風満帆な日々でした。喫茶店のみならず、居酒屋やスナックも開業し、そのすべてが大盛況。従業員も、店舗も増えていきます。しかし、365日休みなく働いた結果、とうとう体を壊してしまいます。2回の入院を繰り返し、藤井さんは40歳の時に決断します。

「50歳をめどに、従業員たちを独り立ちさせて、自分自身もひとりに戻ろう」

生まれ育った岩見沢の山に戻って、コーヒー店を開きたい。その思いを胸に、従業員たちが独り立ちして店を持てるよう、奔走します。そして藤井さん47歳の時、全員を独り立ちさせることに成功します。

いよいよ自分自身の夢に向かって、全身全霊で取り組むことのできる準備が整ったのです。

大工経験ゼロからの店づくり

店を開くにあたり、藤井さんがこだわったのは周囲の環境でした。隣がいないこと、道路から入り込んだ場所であること、敷地内に水が流れていること。ようやく条件に合った場所に建っていた古民家は、とても使えるような代物ではありませんでした。大工道具を持ったことすらなかった藤井さんですが、それでも「何とかなるだろう」と決断したそう。

▼敷地内には川が流れ、ロケーションは条件通り

市場のバイトに行きながら、帰宅後や休日になると店づくりに励む毎日。古くなったところを修繕しつつ、店内で寝泊まりもしていたといいます。そうやってオープンにこぎつけるまでになんと8年もの月日を要したというのだから、夢の推進力、情熱のありように、ただただ脱帽するしかありません。

▼店内には、個々のお客さん専用のカップが

2017年現在、オープンしてから約7年が経とうとしています。目立たない場所にあるものの、店の評判は口コミで広がり、今や常連客も増えてきました。店内の手づくりの棚に並ぶカップ類は、お客さん自身が持ち込むなどした専用のもので、その数の多さが誇らしげに壁を彩っています。

▼店自慢のコーヒーでほっとひと息

コーヒーに対するこだわりは、豆の種類によって取引先を変えるという徹底ぶりです。自然に囲まれた場所で、木のぬくもりを感じながら、薫り高いコーヒーを味わう。それは何ものにも代え難い至福の瞬間となるでしょう。

▼店主の人柄に惹かれて来る客も多い

最後に、店主の藤井さんにいつまで店を続けるのか、聞いてみました。返ってきたのは、除雪ができなくなった時、そして車の免許を返上した時、山を下りようと思っているという答え。そしてそのすぐ後に「それまでは山で遊ぼうと思ってます」とも。

紆余曲折を経て辿り着いたこの場所にて、山で遊ぼうと表現するその自由さが、なんだか藤井さんの人柄そのものを表しているようです。まさに今は「人生の途中」。おいしいコーヒーを味わって、さらに勇気までもらいました。

珈琲舎 人生の途中
所在地:岩見沢市朝日町134
電話:0126-35-2511

取材協力
一般社団法人 岩見沢市観光協会
所在地:北海道岩見沢市有明町南1番地1 岩見沢複合駅舎1階
電話:0126-22-3470
公式サイト:http://iwamizawa-kankou.jp/